ホテル従業2人への暴行容疑で逮捕され、仙台中央署で取り調べ中に脱走したドイツ人、シューツ・ペトロ・ウラジミロビッチ容疑者(25)。現在、県警で確認中だが、同容疑者は逃亡中、近所の民家で服や靴を手に入れた模様だ。
日が落ちれば零下に近づくこの季節。寒さに震える姿を見過ごせなかった地元住民たちは、共通体験を持っていた。2年半前の東日本大震災だ。
同容疑者が逃げ込んだのは、津波被害が甚だしかった地区である。作業着を渡してあげたというガラス屋経営者の作業場の壁にも津波の痕跡がみられる。地震後2日間は自宅2階で生活していたという。
震災後、県外並びに国外からも多くのボランティアが訪れた。以前はあった“ヨソ者”への警戒心も薄れていた。小誌記者は取材中、多くの住民からこんな言葉を聞いている。
「ここいらの人は震災でいろんなところの人に助けてもらったからね。いつかお返しをしたいね」
その“お返し”がこんな形で実現してしまったのは皮肉というほかはないが、優しき東北人にウラジミロビッチ容疑者も心を許していたフシがある。
同容疑者が傷害事件直後に、訪れていた居酒屋店員はこう語った。
「(同容疑者は)一人でやってきてラーメンかそばはあるかって。うちは、つけ麺があるからそれを出したら美味しそうに食べて、ツユだけおかわりした。つけ麺一杯で1時間ほど。隣のお客さんとも仲良くなって腕相撲なんかもしているし、打ち解けた様子でした」
再びお縄を頂戴することになった同容疑者は、現在、厳重に監視された取調室で「もう二度と逃げることはしません。傷害事件で怪我をさせた被害者には申し訳ない」との反省を口にしているという。
■取材/小川善照
※週刊ポスト2013年12月6日号