お正月といえば、かつては『寅さん』という国民的映画があったが、最近では「家族で楽しめる映画」というジャンルはすっかり廃れてしまった感がある。そんな中、『釣りバカ日誌』の原作者・やまさき十三氏の初監督作品が、11月29日に公開される『あさひるばん』。この作品について、映画評論家の田沼雄一氏が解説する。
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ビッグコミックオリジナル誌連載の「釣りバカ日誌」(画・北見けんいち)の原作者やまさき十三の初監督作品。1941年生まれ、御年72歳で劇映画監督デビューはスゴいこと。世界映画史上最高齢の監督デビューではないか。映画の出来以上にこちらに感心。ちなみにコミック版もビッグコミックオリジナル誌で連載中(画・テリー山本)。
題名は3人の熟年主人公、浅本(國村隼)、日留川(板尾創路)、板東(山寺宏一)の名字を合わせたモノ。3人は高校野球部の同級生。野球部の監督・阪元(西田敏行)と娘で部のマネージャーだった幸子(斉藤慶子)の確執を解くため30年ぶりに故郷で再会。このお話に松平健演じる国会議員・野沢がからむ。
笑って、怒って、ホロリときて、最後は大笑い…映画版『釣りバカ日誌』シリーズの流れというか、配給元・松竹映画の伝統である庶民性を生かした語り口。懐かしい昭和の邦画を観ている気分になる。熟年ファンに向けて創られたことは明らか。やまさき監督は端っから若い観客を相手にしていないことが分かる。それでいいのだ。
國村と松平が高校野球のライバル同士だったという設定が意外と面白い。長年バイプレイヤーとしてキャリアを積んできた國村、〈暴れん坊将軍〉としてスター街道を走ってきた松平。対照的な2人が顔を合わせる場面がいちばんの見せ場。オヤジ映画である。
國村ら3人と松平、斉藤慶子演じる幸子は同級生で、松平と斉藤は昔〈ワケあり〉の関係だったという設定に驚かされる。斉藤は1961年生まれ。オヤジたちとは世代が違う。フツウじゃない同級生。宮崎県出身のやまさき監督が同郷の斉藤に気を遣ったのか。
※週刊ポスト2013年12月6日号