小泉純一郎元首相の言う「脱原発」を日本に先駆けて実施した先進国がある。原子力17基を所有し、原発に電力の約2割を依存していたドイツは、法案で2022年12月までに原発の完全廃止を決定した。
こういった首相の強いリーダーシップによって導かれたドイツの脱原発だが、同時に国民への“痛み”も強いている。
まず、電気代。再生可能エネルギー促進のために上乗せされる税金「賦課金」は今年、2000年度の26倍に。標準家庭の年間電気代は昨年比で91ユーロ(約1万2400円)上がり、年間の総負担額は998ユーロ(約13万7000円)になる見込みだ。
あまりに高額なため、電気代を払えない12万世帯が、一時電気を一斉に止められる事態になったことも。一般家庭を悩ませる大きな原因となっている。
もうひとつの“痛み”が、小泉元首相も会見で話していた高レベル放射性廃棄物の最終処分場の問題。
ドイツでも処分場はいまだ決まっていない。1970年代にゴアレーベンという候補地が決まっていたが、地元住民や環境団体の反対にあい、事実上白紙撤回された。
ドイツは18年後の1931年までに最終処分場を決めるべく、今年本格的な作業を開始した。『脱原発を決めたドイツの挑戦』(角川新書)の著者で、ドイツ在住のジャーナリストの熊谷徹さんが言う。
「しかし、市民の環境意識が高いだけに、核のゴミを自分たちが住んでいる町では引き取りたくないというジレンマがあります。建設地が決まった場合、激しい反対運動が起こるでしょう。裁判まで至るケースも考えられます」
日本もまた状況は同じだ。小泉元首相は、10年以上最終処分場が見つかっていないから、即脱原発するべきだと主張。つまり、即刻脱原発を決めなければ、最終処分場の問題はこのままずるずると先送りされ、廃棄物は増え続ける一方だからだ。
原発容認派は、最終処分場のめどがついてからこそ、脱原発論議を進めていくべきと訴えるが、はたしてそうだろうか。
ドイツ政府や国民が脱原発に踏み切ったのは、「この問題をもはや先送りにはできない」という強い意志があったからこそだ。先送りにすることは、すなわち子供たちへの負の遺産を積み上げることにほかならない。
「原子力と化石燃料からの脱却をめざすドイツのエネルギー革命は、エコロジーというイデオロギーに基づくもので、経済的な理由ではありません」(熊谷さん)
現在、ドイツの再生可能エネルギーは、発電総生産量の2割を占める。1950年までには8割まで上げるのが国の指針だ。
※女性セブン2013年12月12日号