元世界ランク1位相手に強烈な右クロスを見舞う村田諒太
圧勝のプロデビュー戦から3か月、プロボクサー・村田諒太(27)が、12月6日に両国国技館で14戦13勝(8KO)1敗のデイブ・ピーターソンと対戦する。試合直前の村田のラスベガス合宿に、ボクシングカメラマン・福田直樹氏が密着した。
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米国西海岸時間の午後3時半、乾いた空気を切り裂くように、パワフルな右ストレートが何度も弾き出される。そのタイミングの良さとインパクトの強さは、同じジムで練習している他のランカーたちとは段違い。それだけでも、このエリートの未来がひたすら輝いていることが分かる。
圧巻のデビュー戦から3か月あまりが経った。初戦でいきなり東洋王者を2回TKOに下し、“超大物ぶり”をアピールした金メダリスト、村田諒太はプロ2戦目に備えて、10月末から再び約1か月間のラスベガス・キャンプを行なった。トレーニングは、デビュー戦前と同じトップランク・ジム。倉庫街にあるこのジムはシュガー・レイ・レナード、フロイド・メイウェザーらを始めとする歴代のグレートたちが汗を流してきた名門中の名門だ。
村田が砂漠のファイト・タウンでキャンプを行なう理由は3つある。まずは同地をべースにするイスマエル・サラスの指導を受けるため。アマチュア大国キューバの代表チームを教えていたこともあるサラスは、プロの世界でも名伯楽として知られ、多くの王者を育ててきた。とりわけ村田のようなトップアマを、プロに適応させる手腕に長けている。
そして、練習相手が豊富にいる点も、ここを選ぶ理由のひとつだ。軽量級では世界有数の選手層を誇る日本だが、中量級以上、村田のいるミドル級(リミット72.575kg)付近となると、とたんに人材が乏しくなる。それに引き換え、アメリカでは同級がいちばん活気溢れるクラスになる。
中でもラスベガスはリングビジネスの中心地なので、手合わせの相手にはこと欠かないのだ。実際に今回、村田のスパーリング・パートナーをメインで務めているのは世界戦の経験を持つ強豪、26勝1敗のマイク・ジョーンズだからレベル的にも文句なしである。
そのジョーンズらとの実戦練習では、随所に進化の気配があった。五輪で見せた強固な圧力に加え、サイドステップを多用したスタイルや「ガードだけに頼らないディフェンスワーク」(村田)などを状況に応じて披露してくれた。サラスの教えを、実力派相手にすぐに試せるのがとにかく大きい。
また、周囲を気にせず、練習一本に打ち込めるこの街の環境も、村田陣営にとっては大事な要素だろう。ラスベガスはご存知のとおりギャンブルの都だが、華やかなカジノ街を離れると、そこには閑静な住宅地と荒野しかない。村田は歓楽街に目もくれず、後者のエリアで宿舎と朝のロードワーク、午後のジムワークを行き来するだけの日々を続けていた。
撮影・文■福田直樹(ボクシングカメラマン)
※週刊ポスト2013年12月13日号