【書評】『超高速! 参勤交代』土橋章宏/講談社/1449円
【評者】内山はるか(SHIBUYA TSUTAYA)
そろそろ書店員が選ぶ文芸賞『本屋大賞』の選考時期になってまいりました。「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」を掲げる同賞は今回で11回目。根回しやすり合わせのない賞として読者の信頼が厚く、百田尚樹『海賊とよばれた男』(2013年)、三浦しをん『舟を編む』(2012年)等の受賞作があります(2014年度の発表は4月8日)。この一年に読んだ本を思い浮かべ、頭を悩ます季節です。面白かったものを挙げるのは簡単ですが、今年の一番を選ぶとなるとなかなか難しいものです。
今年は時代小説の話題作が多かった印象があります。その中の一つが本作。本作はシナリオ作家として数々の賞も受賞している著者のデビュー小説です。映画脚本の登竜門といわれる城戸賞を受賞、同賞は『のぼうの城』の和田竜さんも受賞しています。
時は享保20年(1735)、あの暴れん坊将軍・八代将軍徳川吉宗の時代。貧乏小藩・磐城湯長谷藩に「隠し金山」の嫌疑がかかり、通常10日はかかる江戸まで「五日以内に江戸に参勤しなければ藩を取り潰す」とのお達しが下った。そんなむちゃくちゃな~っと城で揉めていてもしょうがない。さあ、時間はない、お金もない、さらには人もいない。ないないづくしの湯長谷藩一行は道程60里(約250km)をどう参勤しようというのか…。
まず、湯長谷藩家老・相馬兼続が知恵をしぼる。この藩の知恵袋だ。さらに吉と出るか凶と出るのか雲隠段蔵なる怪しい忍者の助けを借りる。常日頃、地方藩を馬鹿にしている幕府老中からはさまざまな妨害に遭う。
それでも「我ら屈強の湯長谷藩の精鋭ぞ! 老中に目にもの見せてやれ」と突き進む。笑いあり、涙あり、そして武士の熱い魂がある!!
藩主・内藤政醇を筆頭に湯長谷藩士たちの底抜けの明るさ、ポジティブ思考、そして彼らは皆剣豪でカッコイイのだ。最近はテレビで時代劇を見ることも少なくなった(昔は週に3本はあった気がするが…)。時代劇の面白さは勧善懲悪である。悪を懲らしめるのだ。
そう、そのためには悪役はとことん悪でなくては面白くない。もちろん、本作に登場する悪役はそれはもう気持ちいいくらいに悪者だ。読めば気持ちスッキリ、エンターテインメント時代小説の誕生だ。
※女性セブン2013年12月19日号