芸能

『仁義なき戦い』は現役のヤクザが所作を教えに撮影所に来た

 東宝ニューフェイスだった俳優の伊吹吾郎は、1969年に「無用ノ介」で主役に抜擢されるまで時代劇は未経験だった。その後、映画では東映と契約し数多くのヤクザ映画・時代劇に出演した伊吹が語る『仁義なき戦い』に出演したときの体験談を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。

 * * *
 1969年に日本テレビの時代劇シリーズ『無用ノ介』で主役に抜擢された伊吹吾郎は、その後は新国劇に所属している。新国劇とは『国定忠治』や長谷川伸原作の股旅モノを中心とした時代劇を得意としてきた劇団で、辰巳柳太郎・島田正吾の二大ベテラン俳優が率いていた。

 新国劇の舞台に立つのと同時期に、伊吹は映画では東映と契約。『仁義なき戦い』(深作欣二監督)を始め、幾多のヤクザ映画・時代劇に出演している。

「本番を終えると、深作監督はとりあえず『オッケー』と言うんですよ。なので、『ああ、これでよかったんだ』と思うんですが、すぐに『ああ、ちょっと待ってくれ。今の微妙に違うから、もう一回いこう』と。最初からダメ出しされるわけではないので、こちらも悪い気はしない。役者の使い方が上手い監督でした。

 当時は現役のヤクザが所作を教えに撮影所に来ていました。彼らが食堂でコーヒーを飲んだりしている仕草を見ていると、芝居の参考になることは多かったですね。人と話す時は、あまり面と向かわないで斜に構えて睨むとか、机をずっとトントンと叩き続けて落ち着かないとか。そうすると、ひと癖ありそうな人間の雰囲気になるんですよ。

 共演が多かったのは、鶴田浩二さんです。あの人には島田先生のおっしゃっていた『品格』があった。『映画俳優』って感じがしました。芝居だけでなく、普段の身のこなしも、下品さというのがあの人の雰囲気の中から一切感じられない。特有の目線の角度とかに品を感じました。

 でも、口頭で何かをおっしゃる方ではなかった。それは僕が感じることですから。学ぶっていうのは、真似ると一緒なんです。尊敬しながら真似る、盗むというのが学ぶってことだと思います。全てはそこから始まる」(文中敬称略)

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2013年12月13日号

関連記事

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
「スイートルームの会」は“業務” 中居正広氏の性暴力を「プライベートの問題」としたフジ幹部を一蹴した“判断基準”とは《ポイントは経費精算、権力格差、A氏の発言…他》
NEWSポストセブン
騒動があった焼肉きんぐ(同社HPより)
《食品レーンの横でゲロゲロ…》焼肉きんぐ広報部が回答「テーブルで30分嘔吐し続ける客を移動できなかった事情」と「レーン上の注文品に飛沫が飛んだ可能性への見解」
NEWSポストセブン
大手寿司チェーン「くら寿司」で迷惑行為となる画像がXで拡散された(時事通信フォト)
《善悪わからんくなる》「くら寿司」で“避妊具が皿の戻し口に…”の迷惑行為、Xで拡散 くら寿司広報担当は「対応を検討中」
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【約4割がフジ社内ハラスメント経験】〈なぜこんな人が偉くなるのか〉とアンケート回答 加害者への“甘い処分”が招いた「相談窓口の機能不全」
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”4週連続欠場の川崎春花、悩ましい復帰タイミング もし「今年全休」でも「3年シード」で来季からツアー復帰可能
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【被害女性Aさんが胸中告白】フジテレビ第三者委の調査結果にコメント「ほっとしたというのが正直な気持ち」「初めて知った事実も多い」
NEWSポストセブン
佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ
「スイートルームで約38万円」「すし代で1万5235円」フジテレビ編成幹部の“経費精算”で判明した中居正広氏とX子さんの「業務上の関係」 
NEWSポストセブン
記者会見を行ったフジテレビ(時事通信フォト)
《中居正広氏の女性トラブル騒動》第三者委員会が報告書に克明に記したフジテレビの“置き去り体質” 10年前にも同様事例「ズボンと下着を脱ぎ、下半身を露出…」
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン