大手コンビニのレジに立つA子さん(39才)の制服の胸ポケットにはいつも、1枚の紙が入っている。働き始めたときに配られたもので、折り目はぼろぼろだ。そこに書かれているのは、新人従業員が身につけておくべき62項目。
「明るく大きな声で接客」から始まって、「領収書発行」「Edyチャージ・支払い」から「おでん(提供・補充・鮮度管理)」「公共料金(払込票・かざす請求書)」、さらには「床・トイレ・ゴミ箱」など掃除についてもまとめられている。コンビニ店員は、実にやることが多い。
「今、3か月が経ったところです。ようやく慣れてきました。週3日、午前中の4時間だけ働いています。急でなければ、思っていたより簡単に休めるし、店も家から比較的近いしで、融通が利きます。あとは、もう少し時給が高ければなぁと。かといって、居酒屋とか夜の仕事はできないので、せめて少しでも時給が上がってほしい」(A子さん)
辞めにくいし、今のところ、辞めるつもりもない。本当はもっと働きたいが、同居している夫の母親がいい顔をしない。だから、今は午前中だけ。顔見知りもでき、仕事は徐々に楽しくなってきた。慣れるにつれ、最初の面接の時に言われた言葉を思い出すことが増えてきた。
<仕事に慣れたら、すぐに時給を上げますからね>
今の時給は、県の最低賃金に近い800円。そろそろという期待もあるが、危機感もある。
「この間、店長が私よりも後に入った人を、本部の研修に連れて行ったんですよ。理由? わかりません。その人のほうが、私より先に時給が上がるかも」(A子さん)
店長は、どこを見ているのか。大手コンビニのオーナー西村元雄さん(仮名・68才)は、「コンビニの仕事は確かに内容が多岐にわたりますが、1か月もあれば慣れて、62項目すべて、きちんとできるようになるはずです」と話す。
A子さんは習得がちょっと遅めということだ。彼女が西村さんの店のパートなら、時給は上がるだろうか。
「働く時間が短いので、どうしても責任ある立場を任せにくいですよね。ということは、なかなか時給も上げられない」(西村さん)
時間の短さをカバーするのが、まずは最優先なのだ。その先はどうなるかというと、西村さんの店では、店長もパートに任せている。その下にいるチーフ、さらに時間帯ごとのリーダーもパートで、時給のほかに手当も出している。
「リーダー手当は月5000円、チーフ手当は月1万円、店長手当は月2万円です」(西村さん)
任せられる人には多く払う。それが、雇う側の論理なのだ。ただし、と西村さんは言う。
「これからクリスマスケーキの販売が始まりますが、それをどれだけ売ってくれるかも、私は見ています。パソコンできれいなチラシを作って知り合いに配ったり、店内を飾ったり。そういうやる気のある人には、研修にも行ってもらおうと思うし、時給も上げますよ」(西村さん)
※女性セブン2013年12月19日号