「老眼」をテーマにし、深い夫婦愛を歌った作品が大きな感動を呼んでいる。タイトルは『老眼になった君へ~愛~』。ハワイアンミュージックの夫婦デュオ「石川優美&Pono Lani」による安らぐボーカルと、優しいギターの音色が心地よいこの歌は、2010年8月15日にインディーズでリリース(初回プレス500枚)され、瞬く間にクチコミで評判が広がった。
NHK「ラジオ深夜便」の“深夜便のうた”で連日放送され、シニア層を中心に大きな話題となっている。11月には、歌を元にした絵本も発売された。
作詞・作曲は、嵐やSMAPなど、ジャニーズを中心に詞を提供し続けている作詞家・相田毅氏(54)。この歌は2009年に、相田氏が夫人・恵美さん(52)のために書き下ろしたプライベートな作品だった。
きっかけは、検眼に行った夫人が、医師に老眼だと告げられたこと。帰宅後、その報告を受けた相田氏が、
「夫婦になって、僕らもそんな時を迎えたのだなァ」
と感慨に浸り、歌を作ることを決意した。予備校時代に知り合って結婚してから、24年目の出来事だった。歌を作るにあたって、相田氏は新婚からの日々に思いをめぐらせた。最初は夫人の誕生日に、自宅でささやかに完成披露。夫人は涙ぐんだという。
「夫婦の絆」は多くの作品で歌われてきた、永遠のテーマだ。代表的なのは、デューク・エイセスが1963年に歌った名曲『おさななじみ』。幼なじみが大人になって再会して結婚、子供を持ち、親になって老いてゆく一生の物語である。
相田氏はこれに共感しながらも、実は少し違和感を覚えていた。それは歌における「子供」の存在である。
「僕たち夫婦には子供がいません。これまでの夫婦愛について歌った曲はほとんど、“子供を含めた家族としての歌”なんです。子供がいないことを表現に組み込んだ作品は見当たらない。ならば僕が作ってしまおう、と思った」
歌う石川氏もこう語る。
「実は、私たちも子供のいない夫婦なんです。それで悲しい思いもしました。この曲は1回だけでなく、何回か聴くうち、自分の人生と重ね合わせて感じ取る作品だと思います。この歌が、多くの家族の方に広まっていけば嬉しいです」
メジャー・リリースされたCDは現在5000枚のセールス。特定のアーティストしか売れないCD不況の中、無名のアーティストでこの数字は大健闘といえる。相田氏はいう。
「今はもう自分の歌じゃない感があり、里子に出したような感覚。でも、少しでも多くの人に感動を届けることができればと思います」
※週刊ポスト2013年12月13日号