12月20日に上演15周年を迎える『ライオンキング』(四季劇場[春]にて)。1998年に同劇場のこけら落とし公演となった当時の盛り上がりもそのままに、無期限ロングランは継続中。15年間の上演回数は全国で8900回を超え、観客動員数は900万人に迫る。名実ともにミュージカルの“キング”に成長した本作品の魅力を、初演当時からラフィキを演じてきた青山弥生に聞いた。
「初めて『ライオンキング』を見たのはブロードウェイでした。雪の降るなか、5~6時間並んでやっとチケットを手に入れて。
最初はただ迫力に圧倒されるばかりで、日本人がこれを本当にできるのかと思いましたね」(青山・以下「」内同)
16年前の冬のできごとだ。その後、2度のオーディションを経て、青山はラフィキ役に選ばれる。
「まず向かったのはアフリカの国々の大使館でした。ラフィキは2幕の途中までほとんど、ズールー語やスワヒリ語など、アフリカ語のセリフしかなかったので、大使館で録音させてもらったセリフをテープがすりきれるほど聞きましたね。
もちろん動物園でヒヒの観察もしましたし、稽古場では、朝は朝日がさす稽古場で“サークル・オブ・ライフ”を、夜は暗い稽古場で電気を消して“彼はお前のなかに生きている”を歌っていました。
ラフィキは年を取ったヒヒの呪術師ですから、なんとか年老いた感じを出したくて、両腕と両脚、10kgずつ4か所に重りをつけて稽古をやっていました。衣裳もすごく重いのに! 若いからできたことです(笑い)」
ステージ上では大きな存在感を放つ青山だが、素顔は身長150cmと小柄。“小猿”でありながら母性、神秘性、強さ、クリーン…というイメージを併せ持つラフィキそのものにも思える。
青山は、冒頭に歌う“サークル・オブ・ライフ”という歌には生命に正面からぶつかる、とてつもなく大きな世界観があるという。
「年を重ね、身近な人の死も経験するようになって、その歌詞の深さを改めて考えさせられるようになりました。なかにはこの歌で目頭を押さえるお客様もいらっしゃいます。
劇中では命の尊さ、誕生の喜びを伝える歌なのになぜ? と思いながらも、自分でも涙を流していることもありました。そんな不思議な力を持つ歌なんです」
昨年、最愛の父を看取る。その前後に出演していたのが『ライオンキング』だった。
「自然死を選んだので、自宅で看取りました。危篤の際には実家に帰らせていただいて。姉と1時間交代で看病をしていたんですが、その時は私の番でしたね。空に大きな二重の虹が出たんですよ。その後、父がぱっと目を見開いて、微笑んでからふーっと息を吐いた。そして呼吸が止まりました。
お葬式を済ませて、公演に戻ったんですが、“サークル・オブ・ライフ”では涙が出なかった。それまで死に対する恐怖があったのが、これが人間なんだと受け止められる感じになったのかもしれません」
※女性セブン2013年12月19日号