「“小さいおじさん”を目撃してから売れ出したという芸能人もいるように、彼は幸せを運んでくる青い鳥のような存在ではないでしょうか」
と語るのは、仕事、家族、恋愛に悩みを抱える3人の女性と“小さいおじさん”との関わりを描いた『小さいおじさん』(文藝春秋)著者の尾崎英子さん(35才)。本書は日本出版界初の競争入札が行われ、複数社からの応札を経て、刊行が決まった。
“神社の木陰で遭遇”“窓に貼りついていた”“お風呂場に出現”…。妖精なのか妖怪か。最近よく耳にする“小さいおじさん”。身長は数cm~20cmぐらいといわれ、柳原可奈子や的場浩司など芸能人の目撃談も多い。
物語に登場するのは28才の女性3人。大手ハウスメーカーで設計士として働く曜子は、母親とのかかわりに悩み、主婦の紀子は結婚して娘もいるが、漠然とした孤独感を埋められない。最近、仕事を辞めた朋美は人に言えない秘密を抱えている。
中学時代の同級生である3人は同窓会で再会。地元の神社でランニングと股引姿の“人差し指大のおじさん”を目撃したという朋美の発言をきっかけに、3人の人生の歯車がゆっくりと動き出す。
「実は自宅の近所にある神社に出るという噂があって、行くたびにこっそり探してました(笑い)。そんなときにふと、私には見えないだけでここにくるだけで実は小さいおじさんの御利益を受けているかもしれないなぁって。この作品を書いた動機のひとつです」(尾崎さん・以下「」内同)
著者は不思議な存在に肯定的だ。いや、むしろ積極的だ。
「幼稚園ぐらいのときの話なんですが、家の縁側に虎がいたんですよ。今となっては現実なのか幻覚なのかわかりませんが、そのときは慌てて姉を呼びにいって、ふたりで戻ったときにはもういませんでした。そういう記憶があるので、スピリチュアルや都市伝説的なものに対するハードルが低いというか、拒否する気持ちがないんですよね」
とはいえ、本書は小さいおじさんが前面に出てくるのではなく、いるのかいないのか。ひっそりとした息づかいを感じる程度。物語のなかで、具体的にどういう位置づけなのだろうか。
「主人公たちは気づいているのかわからないけれど、彼には、ちょっとだけ彼女たちの人生の後押しをしてもらっています。ほんの少し、人との縁を結んでくれる。そういう存在がいたらいいなという願いも込めて」
主人公たちを28才に設定したのには理由があった。
「30才手前は仕事、結婚、出産など人生の選択を迫られる場面が多いですよね。一般的に思春期は10代といわれていますが、30才手前の27、28才のころが第二の思春期じゃないかなと感じています。何かと思い悩む時期だからこそ、いろいろな出来事が印象深く心に刻まれる。
当時聴いていた音楽が耳に染みついてたり、映像が鮮明に心に残っていたり。私も30才という大きな扉を前に、友人たちと“これからどうしよう”なんて話をよくしていました。人生において強烈な記憶となる時期だからこそ、読み手のかたが40代、50代だとしても、懐かしく感じたり、共感してもらえると思っています」
※女性セブン2013年12月19日号