韓国で反日運動が盛り上がりを見せているが、今から20年以上に、現在を予見するような長編小説を発表したのが、本誌で『逆説の日本史』を連載中の作家・井沢元彦氏だ。その作品『恨の法廷』は、韓国の反日の根底に「恨」の感情があると喝破した作品。まさに“予言”と言って良い、先見性に満ちた作品の内容を紹介しよう。
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韓国人とのトラブルから、交通事故死したはずの主人公が目覚めた場所は、法廷だった──死後の世界に出現した法廷で、日本、韓国双方の代表が、歴史認識を中心とする、日韓で対立する様々なテーマについて議論していくディスカッション・ドラマ形式の小説作品。
中国の古代の皇帝(天帝)が裁判長を務める。主任弁護人ないし主任検事役の架空の人物に加え、日本側の立会人である聖徳太子、韓国側の立会人である檀君(朝鮮民族の始祖とされる伝説的な神人)を始め、親鸞、道元、上杉鷹山、太宗武烈王(新羅王。唐と連合して百済を滅ぼし、朝鮮半島統一の基礎を固めた)、李退渓(韓国の朱子とも讃えられる16世紀の大学者)など、様々な歴史上の人物が証人役で登場する。
法廷は、「日帝三十六年」(日本統治時代の36年間)を呪詛する韓国側の激しい非難から始まり、日本側が証拠、証言と論理を積み重ねて反論するという形で進み、その議論の過程で日韓双方の文化の本質が明らかにされていく。
朝日新聞が、戦時中の慰安所の設置に旧日本軍が「関与」したことを示す資料が「発見」された、と大々的に報じたのは1992年1月。慰安婦に関して軍の「関与」や「強制性」を認めたいわゆる河野談話が発表されたのは1993年8月である。
一方、本書が日本経済新聞社から刊行されたのは1991年2月(1995年9月に徳間文庫版刊行。ともに絶版)。まだ「従軍慰安婦問題」や「歴史認識問題」、あるいは「竹島問題」などは、激しく対立する日韓の外交問題として浮上していなかった。
だが、その時点──今から20年以上前に書かれたにもかかわらず、本書が提示した争点や日本側の反論は少しも古くなっていない。それは本書に先見の明があったことを物語ると同時に、いまだ問題に決着がついていないことも示している。その意味で、不幸な事態はいまだ続いていると言わざるを得ない。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号