東京都の猪瀬直樹知事が医療法人徳洲会からの5000万円提供問題で火だるまとなっている。猪瀬知事に対する都民の信頼や期待は失墜した。しかし、“猪瀬氏が辞め、新しい都知事が誕生するなら誰でもいい”とはならない。
その人物は巨大都市の顔にして、7年後の東京五輪ホストの最右翼となる。特殊な政治状況があったにせよ、猪瀬氏が昨年の選挙で433万票の史上最多得票を得たのは厳然たる事実だ。新知事がその数を超えなければ「猪瀬氏以下の期待」でしかない。
いくら五輪開会式で名スピーチを披露しても「棚ぼた知事」というレッテルが付きまとう。すでに「次期都知事候補」の名が取り沙汰されているが、そこに「433万票超え」の期待を抱かせる人物は見当たらない。政治家やメディアが“本命候補”と持ち上げたところで、都民には“本命なき都知事選”に見えてしまうのだ。
「433万票の壁」を破る人物は誰もいないのか?
それは違う。その壁を簡単に乗り越えるであろう人物といわれれば、誰もが「原発ゼロ」演説で存在感を放った小泉純一郎・元首相を思い浮かべるはずだ。
「仮に出馬すれば我々に勝ち目はないから候補を立てられない。民主党も維新も同じで、小泉支持に回らざるを得ない。共産党は戦うだろうが、原発ゼロを唱える小泉は共産党支持層さえも奪い取る。得票率9割超の圧勝になるだろう」(前出の自民党都連関係者)
都の有権者数は約1080万人。「五輪都市の首長選」という関心の高さを加味して投票率が70%になるとすれば、その9割得票なら700万票──。猪瀬氏が誇示する433万票が霞んで見える。
「小泉都知事」を“猪瀬氏の後釜”と見る人は誰もいないだろう。その政治手法や政策には危うさが同居するとはいえ、発信力の高さは東京を五輪開催までにさらに飛躍させてくれるのではないかという期待感を抱かせる。何より、このままでは五輪利権の後釜選びという陳腐な選択になりかねない都知事選が、一転、「原発ゼロ」の是非という国家の進路を問う重大な選挙へと変質する。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号