突然、中国が「防空識別圏」を設定した問題。米・バイデン副大統領は先の安倍首相との会談後、中国訪問時に「日本と中国の間で不測の事態を避けるための連絡手段を設けること」を提案した。アメリカは「不測の事態」を、絵空事だと考えていない。米国国防関係者がいう。
「米軍は11月23日の防空識別圏設定後に、何度も大型の爆撃機であるB-52機をその空域で飛行させている。それに対し中国は何の反応もしなかった。その後、米軍の発表を受け、中国は“しっかりと把握していた”と主張したが、本当に把握できていたのか、人民解放軍のレーダーの解析能力には疑問が残る。軍用機と民間機を明確に区別できているのかも怪しい。
さらに人民解放軍のパイロットは未熟者が多い。テクニックもそうだし、軍の統制が利かないこともある。海南島事件の時もそうだが、彼らは時に暴走しがちで、取り返しのつかないことになりかねない。それを懸念し、民間航空機のフライトプランの提出を容認したというのが本当のところだ」
米国は中国空軍との間で苦い思い出がある。それが「海南島事件」である。2001年4月、海南島付近の南シナ海上空で中国国内の無線通信傍受の偵察活動をしていた米海軍の電子偵察機EP-3Eと人民解放軍のJ-8II戦闘機が空中衝突。中国軍機が墜落しパイロットが殉職。米軍偵察機は至近の海南島の飛行場に不時着した。
米軍パイロットらが身柄を中国に拘束され、その後、両国は互いに非難合戦を行なった。軍事ジャーナリストの井上和彦氏が説明する。
「米軍機の乗員が主張した通り、この空中衝突の原因は中国軍機の行き過ぎた挑発行為でした。しかし、中国側は、米軍機が違法な飛行を行なっていたと非難し、墜落死した自国軍戦闘機パイロットを“米軍機に対して身を挺して挑み殉職した”として英雄に祭り上げた。はねっかえりのパイロットの暴走を、中国は隠蔽するだけでなく、正当化さえしたのです」
民間機でも防空識別圏を事前通達なしで飛行すれば、スクランブルをかけられることは考えられる。未熟なパイロットが乗る軍用機に威嚇され、接触という最悪の事態も起きかねない。
その時、中国は「日本の民間機が警告に応じなかった」あるいは「そのまま放置すれば領空侵犯の恐れがあった」などと主張する可能性も、過去の例をから見てゼロではないだろう。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号