東京都の猪瀬直樹都知事が、医療法人徳洲会からの5000万円提供疑惑で進退窮まっており、近い将来の都知事選挙も取り沙汰されている。そこであの小泉純一郎元首相に期待する声も一部で高まっている。もちろん小泉氏が出馬すれば圧勝は確実だろう。小泉氏の都知事就任はありうるのか。
「小泉出馬なら選挙情勢が一変する」という見方は衆目一致する。「都政が活気づく」という期待感も強い。だが、現時点で「小泉出馬」を確信する材料はない。
それでも、その可能性を誰も否定できないのが、政治家・小泉純一郎の特性だ。かつて小泉氏は若手議員に、「人生には“まさか”がある」(※注1)と説いた。その言葉が“まさか”と驚かれる政治決断を繰り返してきた自身の経験に基づいていることは間違いない。
あの「原発ゼロ」宣言も“まさか”だった。“過去に原発を容認していた人物がいえるはずがない”“かつての愛弟子・安倍首相に喧嘩を売るはずがない”──周囲はそう思ったが、小泉氏は「オンカロ視察(※注2)で確信した」の一言で脱原発の旗を掲げた。
ならば、都政進出における「オンカロ」は何か。
自民党は“次の都知事を決めるのは俺たちだ”という姿勢を露わにし、“知事候補の候補”は五輪ホストという果実に目をぎらつかせている。党内から総スカンを喰いながらも「郵政民営化」を掲げ、負け戦を繰り返した末に総理総裁の椅子にたどり着いた小泉氏の目には、そうした古巣の光景が「美しくない政治」に映るかもしれない。
また、安倍政権が進める原発再稼働や東電の税金救済が、小泉氏の“まさか”を呼ぶ可能性もあろう。「東京都知事」は、再稼働にストップをかける上で、最も影響力を行使できる立場だからだ。
小泉氏が、数を頼りに我が道を突き進む安倍政権にブレーキをかけられる唯一の存在だとするなら、都知事就任で“最強の野党”になり得る。
猪瀬氏が続投するにせよ、新たなトップが誕生するにせよ、都政や東京五輪の名誉と利権を貪るばかりの人物であってはならない。残念ながら、そうした空気が今の東京には満ちている。だからこそ、「小泉都知事ならどんな東京になるか」という“空想”が、これほど魅力的に映るのである。
【※注1】安倍首相が辞任を表明した後の2007年10月に新人議員を多数含んだ会合で「人生には上り坂、下り坂。政治は『まさか』がよくある。来年には選挙があるだろう。次の選挙に向け、何らかの形で協力していきたい」と発言した。
【※注2】今年8月中旬に、三菱重工業、東芝、日立製作所の原発担当幹部と同行しフィンランドにある核廃棄物最終処分場「オンカロ」を視察。視察中に「今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな。ますますその自信が深まったよ」と発言した。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号