中国では最近、著名な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)氏が、一人っ子政策に違反し3人の子持ちであることを認め、その罰金総額が1億6000万元(約27億円)に達する可能性があるとの報道が話題になった。しかし、罰金がなぜ、こんな高額になるのか、また、その使い道はどうなっているのかなどについて中国情勢に詳しいジャーナリスト、相馬勝氏が解説する。
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張芸謀氏の罰金がなぜ、27億円などというすさまじい額になるのか。日本人のみならず、中国人以外だれでも不思議に思うだろう。
それは、中国の各都市の内規で、罰金は夫婦の年収を合わせた額の3倍から10倍と定められているからだ。その額は中国全土で一律ではなく、各地方都市の裁量権に任されている。上海市の規定では3倍だが、地方都市では10倍のところもある。
今回の張芸謀氏の違反を摘発したのは、風光明媚な名所、旧跡が多い江蘇省無錫市政府。同市では罰金を年収の何倍に設定しているかは明らかにしていないが、大都市部はほぼ3倍とみられるため、3倍と仮定すると、張氏の年収は罰金から計算すると、9億円となる。映画で多くのヒット作品をもつ張氏ならおかしくない額だ。
それでは、中国全体で罰金の総額はいくらになるのか。これは地方都市が発表していないため、藪の中だが、北京など4直轄市や省・自治区を含む全国31ある1級行政区全体では年間279億元(約3630億円)にも達する、と中国放送ネットが昨年5月、その推定値をはじき出している。
これは1級行政区だけなので総額ではなく、市や県、村などの2~4級行政区を網羅するといくらになるのかは、正確な資料がなく、推定するしかない。が、同ネットによると、ある学者は1980年から始まった一人っ子政策による罰金は昨年末までの43年間の累計で最大で2兆元(約34兆円)にも達するとの試算を公表している。
これは膨大な額であり、これらの罰金の大半が地方政府の“税収”となるとみられている。「みられている」というのは、その実態が発表されていないからだ。ただ、この膨大な額の罰金は地方政府にとっては貴重な“収入”であるのは想像に難くない。
このため、中国政府が世界的にも悪名高い一人っ子政策を止めることができないのは、貴重な”税収”を失いたくない地方政府の激しい抵抗があるためとの見方もあるほどだ。
習近平指導部は先月の中国共産党第18期中央委員会第3回総会(3中総会)で、一人っ子政策を緩和する方針を打ち出した。すでに2002年から、夫婦が1人っ子同士の場合などに子供2人を認める例外規定ができているが、今回の改革では夫婦のうちの一方が一人っ子の場合も、2人目を産むことを認めるというものだ。
いっそのこと、一気に全廃すればよいのでは、と思いがちだが、あらゆる改革断行の場面でみられるように、一人っ子政策でも“既得権益層”である地方からの強い突き上げがあったとみるべきだろう。