1969年に第一部の放映が始まったテレビ時代劇『水戸黄門』は視聴率40%を超えることもある人気番組だった。そこで三代目・格さんを演じた俳優の伊吹吾郎が、同時期に二代目・黄門さまを演じた西村晃から聞いた高視聴率番組の役を引き継ぐがゆえにこらした工夫について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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伊吹吾郎は1983年、人気テレビ時代劇『水戸黄門』(TBS)第十四部から主人公・水戸光圀の供侍・渥美格之進(格さん)役の三代目として出演、以来十七年に亘り、同役を演じ続けた。彼の出演時、番組は既に高視聴率を記録し続けていた。
「僕は西村晃さんと一緒に変わりました。僕は三代目・格さんで西村さんは二代目・光圀。出演する記者会見をする四カ月くらい前から決まっていたんですが、プロデューサーから『記者会見までは絶対に誰にも言うな』と頼まれていて、僕も西村さんも口をつぐんでいました。助さんをやっていた里見(浩太朗)さんと会見場でお会いしたら『あ、吾郎ちゃんがやるんだ』って。そのくらい、みんな知らなかった。
で、会見が終わったら西村さんが『おい、吾郎よ。これは視聴率のいい番組だろ。俺ら二人に代わったせいで視聴率が下がったなんてなったら、何を批判されるか分からんぞ。お前はどんな格さんを考えているんだ?』と聞いてきたんです。
僕が答えに困っていたら、こう言いました。『お前はお前なりの格さんで行け。俺はな、先代(東野英治郎)の笑い方を変えようと思う。先代は<カッカッカ>と笑うだろう。同じ笑い方じゃ能がないから、俺は<ホ>から<ハ>に行こうかと思うんだ。<ほっほっはははっ>って』。まあ、シリーズの後半は<ハ>ばかりでしたけどね(笑)」(文中敬称略)
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が絶賛発売中。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号