糖尿病は身体のエネルギー源であるブドウ糖が筋肉などに取り込まれにくくなり、血液中に糖が出て血糖値が上昇し様々な症状が出る病気だ。進行すると腎不全や糖尿病性網膜症、末梢神経障害など合併症が起こるので、血糖値のコントロールが欠かせない。
既存の糖尿病薬は、血糖値を下げるインスリンに作用するものが多かったが、来年4月に認可されるSGLT2(グルコーストランスポーター2)阻害薬は、全く違う作用を有する。
全身を巡っている血液が腎臓を通過する際、腎臓は血液中の不要なものをこし取って原尿を作る。その量は一日に約150リットルで、尿管を通って膀胱に蓄えられる。その過程で水分やアミノ酸、糖など身体に必要な物質が血液に再吸収される。昭和大学医学部糖尿病・代謝・内分泌内科の平野勉教授に話を聞いた。
「糖の再吸収は腎臓の近位尿細管で行なわれます。近位尿細管にはSGLT1とSGLT2という輸送体があり、尿中の糖を認識して血液に送り出しています。主に働いているのがSGLT2で、新薬はこのSGLT2の働きを阻害し、糖の再吸収を防ぎ、そのまま尿に出す作用をします」
以前、実験用の注射薬でSGLT阻害薬はあったが、SGLT1とSGLT2の両方を阻害するため、小腸での糖の吸収に作用して胃腸障害などが起こった。今回の新薬はSGLT2だけに作用する。
この薬は尿中に糖を出すので、従来のような糖尿病の尿検査では誤った結果が出やすいため、血液検査を行なう必要がある。インスリンに作用するのではなく、腎臓だけで糖の再吸収を阻害するので、低血糖などの副作用がほとんど起こらない。
糖が体内に再吸収されず、体内のブドウ糖が減少するので、蓄積された脂肪を分解し、脂肪酸が代替エネルギーとして使われる。これにより体重減少も起こり、血圧や血清脂質 の低下など、副次的な作用も期待できる。
副作用としては、尿に大量の糖が混入するので、尿が下着に付着すると細菌が繁殖し、膀胱炎や性器感染症を起こすこともある。特に高齢者は尿漏れなどもあり注意が必要だ。
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2013年12月20・27日号