テレビ時代劇『水戸黄門』での主人公・水戸光圀の家臣、渥美格之進といえばもう一人のお伴の家臣、助さんと異なり真面目だが武術の腕は一流で、最後の決め台詞「ここにおわすお方をどなたと心得る~」とともに印籠を出す重要な役回りだ。1983年に三代目・格さんを受け継いだ俳優の伊吹吾郎が見せ場で印籠を美しく見せるためにこらした工夫を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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伊吹吾郎は1983年、人気テレビ時代劇『水戸黄門』(TBS)第十四部から主人公・水戸光圀の供侍・渥美格之進(格さん)役の三代目として出演、以来十七年に亘り、同役を演じ続けた。彼の出演時、番組は既に高視聴率を記録し続けていた。
格さんの見せ場といえば、なんといっても毎回の終盤、「ここにおわすお方をどなたと心得る~」に始まる、光圀の正体を明かす口上を述べ、懐から印籠を出して周囲に見せつける場面だ。これを美しく見せるために、伊吹なりの工夫が込められていた。
「みんな、ただ印籠を出しているかと思うかもしれないけど、そうじゃないんですよ。それまでの格さんの出し方を観ているとね、五本の指で持って出していた。ただ、それだと葵の御紋に指がかかりそうになるし、全体の輪郭も隠れてしまう。それで三本で持つことにしました。
でも、今度は印籠の下についている、帯に挟むための紐と根付がブラブラしてしまう。だから、余った小指と薬指で紐を挟んで押えたんです。懐に手を入れた時は、いつもすぐにその持ち方ができるようにしていました。
立回りの時は帯に印籠は付いているんだけども、それが終わったらすぐに懐から出さないといけない。ところが、監督によって印籠を出すカットの撮り方が違うんですよ。ある監督は、『立回りの後は手を懐に入れる格好だけして、次のカットで寄った時に改めて懐から出して』と。これだとスムーズに出来るからいいんですよ。
ですが、監督によっては、立回りから印籠を出すところまで1カットで撮ることがある。そういう時は、チャンバラをしている時にどうしても印籠があちこち動いてしまうんですよ。でも、黄門様の所に戻ってきた時に『あれ、印籠はどこへ行った』って探していたら、もう駄目なわけで。懐に手を入れたらすぐに印籠を出さないといけない。それでよく苦労しました」
※週刊ポスト2013年12月20・27日号