半世紀近く日本料理を伝えてきた料理研究家の“ばぁば”こと鈴木登紀子さん(90才)と、次女で同じく料理研究家の安藤久美子さん(58才)が、おせち料理の今昔、そして将来への思いを語った。
鈴木:お正月といえば、私が今も思い出すのは、12月20日頃になると、おせち料理の食材を準備し始める母の姿。28日あたりから、まず黒豆を煮て、数の子の塩抜きをして。31日までずっと、お台所は昼夜なくいいにおいがしていたわ。
安藤:お母ちゃまもそうだったわね。私は“音”も憶えてる。包丁の音とか、お煮しめがクツクツ煮える音。いつもとはちょっと違う音やにおいで、「ああ、お正月だな」って…。
鈴木:一の重、二の重、三の重とあって与の重。与の重にはお煮しめが入ってね。これとお雑煮で、家族が三が日を過ごすわけよね。おせち料理には、せめてお正月の三が日は、女性がお料理をしなくても済むようにという意味もあるのだから。
安藤:最近では、子供が「おいしくない」とおせちを食べない…って悩むお母さんたちも多いの。「ちゃんと作ったら、絶対においしいのよ」と話すのだけれど。
鈴木:舌がお総菜やコンビニの味付けに慣れているのよね。
安藤:私は、お母ちゃまのお煮しめも大好きだった。
鈴木:あなたたち、おやつ代わりにも、お煮しめと紅白なますをつまんでいたものね。
安藤:最近は、おせちを“買う”のが当たり前になっているでしょう? 市販のお重をベースにして、あとは自分の作りたいものや家族のリクエストに応じて何品か作る、というのが主流らしいわ。
鈴木:私はおせち料理だけは後世に残していきたいの。
祝い肴三種(黒豆・数の子・田作り)、紅白なますとお雑煮。もしも余力があればお煮しめも。これで立派なお正月よ、と生徒さんにもお話ししているの。全部作るのは無理でしょうから、せめて…ね。
【鈴木登紀子さん】
青森県生まれ。東京・田園調布の自宅で料理教室を主宰するかたわら、『きょうの料理』(NHK)などで人気。著書多数。90才。
【安藤久美子さん】
東京生まれ。ばぁばの次女で、高校時代からばぁばのアシスタントを務める。自らも料理教室を主宰。ばぁばのことを「お母ちゃま」と呼ぶ。3人きょうだいの末っ子。58才。
※女性セブン2013年12月26日・2014年1月1日