アジアを流れる国際河川の多くはチベット高原に水源を持つ。中国は上流部に次々とダムを造り、水資源を独占しようとし、下流域の国々との紛争の火種となっている。『中国最大の弱点、それは水だ!』(角川SSC新書)の著書がある参議院議員の浜田和幸氏が解説する。
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メコン川(中国名・瀾滄江)は水源をチベット高原の青海省に発し、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを貫流するインドシナ半島最大の国際河川である。下流域に住む6000万人以上の人々は食糧、生計、移動、日常生活をこの川に依存してきた。
1995年、メコン川の有効活用と環境保全を目的に、国際組織「メコン川委員会」(MRC)がタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアによって結成された。しかし、中国はミャンマーとともに正式にMRCのメンバーにならず、オブザーバーにとどまっている。
そして中国はMRCにしかるべき説明をしないまま、上流域の雲南省で8か所のダム建設を強行し、6か所を完成させた。そのうちの小湾ダムは高さ292m、水面面積190平方キロリットル、発電量420kWで、中国最大の三峡ダムに次ぐ巨大ダムだ。
中国が上流に大規模ダムを次々に建設したことで、メコン川下流域の環境は大きく変化しつつある。流域住民はたんぱく質摂取量の80%をメコン川の漁業資源に依存しているが、カンボジアなどでは漁獲高が激減している。一方で2008年に大洪水が発生し、タイやラオスで大きな被害が出た。治水には役立っていないのである。
下流の国々はMRCに加入しない中国に対して毎年のように非難決議を出し、国連の環境プログラム(UNEP)もメコン川の環境悪化に警鐘を鳴らし続けているが、中国は一切耳を傾けようとしない。
中国が周辺国の怒りをよそに東南アジアの国際河川の上流に大規模ダムを相次いで造るのは、水不足だけでなく、国内の電力不足が深刻化しているためである。西部の豊富な水資源で得た電力を東部の広東や上海に送電するいわゆる「西電東送」政策を強力に推進している。
※SAPIO2014年1月号