王貞治氏は現在、福岡ソフトバンクホークス会長の職務の傍ら、世界少年野球推進財団理事長の仕事もこなしている。1990年、野球の世界的な普及を目的に活動が始まり、これまでに91の国と地域が参加。2013年の福井大会で23回を迎えた。王氏が活動の目的について語った。
* * *
ちょうど(王氏以前に本塁打数世界記録を持っていた)ハンク・アーロンと僕が現役を終えて、何かをやろうとなったんです。野球しかわからない人間が、恩返しをするには野球しかない。僕とアーロンだったら、まァちょっと大げさなんだけど、世界の子供たちと野球を通じて、交流の場を作れるんじゃないか、とスタートしました。
冠スポンサーはつけなかった。失礼な言い方かもしれないけど、冠をつければその会社がいいうちはいいが、その先はわからないから。そうではなくて、あくまで1人でも多くの人の善意で支えて、永続的に子供たちに機会を与えようとしたんです。
最初は大変でした。夏に大会が終わると、また一からスポンサーを探したり、金策をしなければならない。
だけど救いは、子供たちの笑顔なんですよ。子供が大会期間の約10日間でずいぶん逞しくなったとか、積極的になったという手紙や感想をもらうと、「ああ、やっていて良かったな」と思う。そうやって続けていくうちに、本当にゆっくりとした輪なんだけど、理解が広がっていき、今はいい方向へ向いています。
今年の福井の大会の時……300人くらいかな、全員で魚釣りに行ったんです。地元の人の協力で、釣れる状態にしてもらって(笑い)、そこで釣った魚を自分たちで包丁で捌く。食べると、もちろん新鮮でうまい。子供たちには、いい思い出になったと思います。
こういった経験をすると、魚ひとつを食べるにしても、色々な人の力を借りてできていると学べる。感謝されたいなんて気持ちはないけど、子供たちの中に素直な感謝の気持ちが生まれてくれればうれしいね。僕らの小さい時には、近所のおじさんたちにお世話になって、社会の仕組みを教えてもらったものですから。
僕は、自分ほどいい思いができた人間はいないと思っているんです。多くのホームランを打ったといっても、自分1人で打てたわけじゃない。これは皆に支えられたからだと素直な気持ちでいえます。
だから僕と同じように、周囲の助けによって何かに純粋に打ち込める人間が1人でも多くできればと思っています。
※週刊ポスト2014年1月1・10日号