2011年から42年間続いたテレビ時代劇シリーズ『水戸黄門』といえば、水戸光圀が諸国をめぐり旅先で世直しをする物語だ。毎回、終盤にお伴する家臣の助さんこと佐々木助三郎と、格さんこと渥美格之進が悪党をなぎ倒すさまは人気の見せ場のひとつだった。三代目・格さんを演じた俳優の伊吹吾郎が、助さんと格さんの強さの違いをどのように演じたのか語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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伊吹吾郎は1983年の第十四部からテレビ時代劇『水戸黄門』に渥美格之進(格さん)役で出演している。そして、佐々木助三郎(助さん)を演じる里見浩太朗と毎回、息の合ったコンビネーションを展開してきた。
「里見さんは抜群ですよ。東映で時代劇をずっとやってきた人だから、所作、身のこなし、そういうのが備わっている。
あの人はざっくばらんな方だから、すぐに『浩ちゃん』『吾郎ちゃん』と呼び合う仲になってね。セットでもよく打ち合わせしましたよ。立ち位置とか座り位置とか。
『こっちの方が立つか。いや、待てよ。やっぱり、そっちの方がいいんじゃないか』と話し合うんですよ。というのも、お互いに次の動きがあるから、ぶつからないようにしないといけない。特にチャンバラはいつも二人でやっていたので、立ち位置はいつも入念に打ち合わせをしていました。
気をつけたのは、互いのキャラクターの対比をつけることです。いちおう助さんは剣の達人、格さんは柔術の達人ということになっているんだけど、互いに刀をもってチャンバラをする時もあるんです。そういう時は、助さんと格差をつけるようにしました。格さんは刀で戦っていると、ヨロヨロとなってしまうとか。それで、刀を捨てて、どつく戦い方に戻る。それで、『やっぱり格さんはこの戦い方がいいな』と視聴者に思ってもらう。
自分の得意分野ならスーパーマンになっていいんだけど、なんでもできるスーパーマンになってはいけない。対比をつけずに同じようにやっては、面白くはならないんですよ」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が絶賛発売中。
※週刊ポスト2014年1月1・10日号