2013年12月11日に東証マザーズに上場し、公募価格の2.3倍に相当する8050円の初値をつけたのは、2003年創業の「オウチーノ」。記者が井端純一社長(61)のもとを訪れたのは上場から5日後のことで、受付にはお祝いの花があふれていた。
オウチーノは不動産の物件情報サイトなどを運営するが、井端氏はもともと“アナログ人間”だったという。
「創業前は住宅情報誌『CHINTAI』で編集部長という役職にあって、いわゆる“紙”の人間でした。部下に『メールなんかで報告するな! 電話してこい』などとよく怒鳴っていましたよ。自分の机に置いてあるノートパソコンには触れたこともないという、フツーのおじさんでした(笑い)」
そんな井端氏がウェブサイトを運営する会社を創業するに至ったきっかけは、大学進学のために上京する姪の新居探しだった。
「私はその道のプロだったので二つ返事で請け負いました。ところが、雑誌の発売当日に4つほど物件を見繕って現地に足を運んでみると、驚いたことに4物件ともすでに下見客が来た後だった。調べると、当時すでに契約者の3割が携帯経由で物件情報を入手していることがわかり、衝撃を受けたんです」(井端氏)
さっそく社内で「紙からネットへのシフト」を提言したが受け入れられず、悩んだ末に退職を決意した。
「『会社を辞めてインターネットの会社をやろうと思う』というと、女房が号泣しましてね(笑い)。周囲にも反対されましたけど、僕はもう止まらない。ホントに辞表を出しちゃった」
見た目はゴツイ印象ながら、茶目っ気たっぷりに語る井端氏。いざ会社を立ち上げると、社長の思いに共感した人が吸い寄せられるように集まってきた。
「不思議なもんです。本気で“この指止まれ”をすると人が集まってくる。たとえば、私はネットに詳しくないのですが、専門のエンジニアも集まってきた。
当社の理念は『家の購入をギャンブルにしない』。それは、業者が十分な情報を開示せずに、住宅という人生最大の買い物をさせるという悪習が業界に残っていることに対するアンチテーゼ。私にはそれを変えることは絶対に正しいという信念があった。その“思い”に情熱を持った仲間が集まってくれた」(井端氏)
今後は海外の物件情報も取り扱い、物件のボーダレス化を図りたいという。
「マドンナのイギリスの家は18億円で買える。フランスのお城も3億円で買える。ニュージーランドやオーストラリアだと、プール付きの家が中古なら800万円から。東南アジアなら300万円で一軒家が買える。今後、目減りしていく年金で老後の生活を支えなければならない人も、海外の物件に目を向ける機会があれば、選択肢は格段に広がります。私たちが家の中古流通を世界に広げたい」
そう熱くビジョンを語る姿は、とても10年前までパソコンを触ったことがなかった人とは思えない。
※週刊ポスト2014年1月1・10日号