主人公・水戸光圀の家臣、渥美格之進を演じたテレビ時代劇『水戸黄門』をはじめ、数多くの時代劇に出演してきた俳優、伊吹吾郎。時代劇の見せ場でもあるチャンバラ、立ち回りについて伊吹が語ったこだわりについて、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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『水戸黄門』に限らず、伊吹はこれまで数多くの時代劇に出演してきた。それだけに、立ち回りに関しても自分なりのこだわりを強く抱いている。
「チャンバラは斬られ役が上手いこと斬られるから、主役が強く見えるんですよ。『芯(=主役)が立つ』っていうけど、立たせるためには周りが上手い人じゃないと駄目なんだ。
斬られ役がいっぱい出るからということで、最近では製作部が大学生を雇ったりすることもあるんだけど。でも、たいていは初めてやるもんだから『よーい、スタート』って声がかかったら、もう目の色が違うんだよ。こっちも『これは怖いな』と思ってしまう。そうしたら案の定、物凄い勢いで斬りかかってきて『うわっ、ちょっと待って』となる時があります。
斬られ役はいかに修業が長くないと駄目かっていうことなんです。ですから、『芯』の側の人間は斬られ役をないがしろにしては絶対にいけないね。
だからといって、本番の時だけ彼らと仲良くしようとしても無理ですよ。普段から仲良くしていないと。人間っていうのは感情の動物だから、そういうのが芝居にも出てくるんですよ。それが『ああ、吾郎ちゃんはこう来るから、俺はこう行くよ』といった『あうん』の呼吸になってくるんです。
物語自体もそうでね。脇役が話を動かしていて、むしろ主役はそれに絡む付随のものだと。だから脇役の方が面白いです」
※週刊ポスト2014年1月1・10日号