たったひとりで、ネットで自殺願望を持つ人からの相談を続けている若者がいる。取り組みは世界の研究者から注目も集めている。彼はなぜ、そのような取り組みを始めたのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏が取材した。
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唐突で恐縮だが、「死にたい」と思ったことはあるだろうか。あるいは、もう生きるのがつらくて「助けて」と叫んだことはあるか。
そうした心のSOSを、スマホで検索エンジンの窓に打ちこんでみたとする。すると、例えば「死にたくなったあなたへ」というサイトの広告が、検索結果の上のほうに表示される。
クリックしてみたら、メール相談を受けつけますとの案内。気軽に自分のつらい思いを書きこめる画面なので、「すべてがイヤなんです!」というような文言を打ちこむと、ほどなくして相談員から「どうしましたか?」とレスが来る。
人によってはそこで終わる。でも、人によってはそこから数十回のメールのやりとりが行われる。そして、相談員が必要と判断した場合、うつ病診断サイトでのチェックを勧められ、精神科病院の受診を検討してはどうかと提案される。お金の問題がからんでいる場合は、生活保護の申請の手続きを教えてくれることもある。これらすべて無料で――。
おそらく日本で、いや、世界でもまだ誰も手がけていないそんなネットの自殺防止活動を、一人で立ち上げ、一人で運営している20代の男がいる。その名はJiro ITO。当記事のUP段階では、「OVA(オーヴァ)」というNPOを立ち上げるべく奮闘中、その第一歩としてブログの「壁と卵」を開設したばかりだ。
数か月前にその存在を知った私は、「社会貢献をしたい若者が増えているというが、まあ、自殺防止活動を一人でやるとは怖い者知らずだ。面白い!」と勝手に盛りあがって、Jiro氏の動きを追っていた。そのうちネット界で話題にする人もだんだん増えてきて、ついに先日、「世界デビュー」を果たしてしまった。
年の暮れも押し迫る12月16~18日、東京・秋葉原の巨大複合型オフィスビルで行われた「WHO世界自殺レポート会議及び関連行事」なる大イベント。2020年までに世界の自殺死亡率を10%減少させる目標に向け、世界各国から自殺防止の研究の専門家たちが集結するグローバルな学術会議だ。その最終日の午前プログラムで、和光大学専任講師の末木新氏が「インターネット・ゲートキーパー」(インターネットを使った「命の番人」ぐらいの意味)と題して、Jiro氏の活動を報告した。
さあ、世界の頭脳がJiro氏の挑戦にどう反応するか。この目で見たくて寝不足の私も出かけた。会場には、白いお髭をたくわえたザ・サイコドクターといった風貌の外国人がたくさんいた。末木氏の研究報告は堂々しており、150人ほどの参加者たちが熱心に聞き入っていた。
報告が終了するやいなやスタンディングオーベーション、とはならなかったが、休憩時間になると、末木氏のもとに外国人研究者が何人もやって来た。実際の運用の仕方についての質問などが投げかけられたという。手ごたえは上々だったようである。