それまでJALでは、シートメーカーが提案してきた製品の中から選ぶのが当たり前だった。だがこれでは既製品は超えられない。“JALにしかないオリジナルシートを作るべき”というのが藤島の信念だった。
コンセプトは2つ。フルフラット化を中心とした快眠の追求と、全席通路アクセスの確保である。従来の『シェルフラット』では、窓側や真ん中の乗客が通路に出るには、通路席の人の足を跨がねばならなかった。
「これでは落ち着いて寝ていられません。ストレスも溜まるでしょう」
藤島は、隣り合う座席を前後にずらして配置することで通路のスペースを生み出すことにした。さらにシートの周囲にパーテーションを設けプライバシーを確保し、個室感を演出する。
コンセプトは決まった。破たん前のJALならば、次に図面を元にB/Eエアロスペース社に試作品を発注していただろう。だが藤島は、驚くべき行動に出た。発泡スチロールの板を多数買って羽田の整備場に持ち込み、新シートの実物大の模型を作り始めたのである。それも1席ではない。窓側、通路側、真ん中と3種類も。
「コンセプトや図面だけでは、シートの本当の利便性はわからない。二次元ではなく三次元で発見できることも多いのです。試作品の完成を待っている時間も惜しかったですし(笑い)」
こうして完成した新シート『スカイスイート』は大型機777-300ER機に搭載され、冒頭に記したようにロンドン線でデビュー。現在では、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルス線に就航し、いずれも高い搭乗率を記録している。先日、同じコンセプトのビジネスクラスシート『スカイスイートⅡ』が、一回り小さい767機にも登場した。
「じつは、『スカイスイート』は『シェルフラット』に比べ座席数が減っています。これは社内でも議論になりました。しかし、新生JALはお客様の立場に立つべきです。お客様にとって快適な機内とは何か? 座席数を減らしてでもそれを実現したかったのです」
(文中敬称略)
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2014年1月1・10日号