国民はデフレ脱却をどれだけ期待しているのだろうか。
政府(内閣府)が12月24日にまとめた月例経済報告。その中で、物価に関する判断として2009年11月以来、4年2か月ぶりに「デフレ」の表現が削除された。
それを受けて、日銀の黒田東彦総裁は講演先で「経済や人々の期待などに好転の動きがみられており、千載一遇のチャンスだ」とデフレ脱却に向けた決意を新たにしたという。
アベノミクス3本の矢にもなった「物価目標2%」は、政府・日銀にとって至上命題。日本経済再生に欠かせない処方箋と捉えているのである。
だが、本当にそうなのだろうか。「デフレ脱却=景気回復にすり替えられている危うさがある」と話すのは、経済評論家で大阪経済大学経営学部客員教授の岩本沙弓氏だ。
「デフレは不景気を示す経済用語ではありませんし、逆にインフレは好景気を表しているわけでもありません。『デフレ=モノの価値が下がる=通貨価値が上がる』は、結果として発生している経済現象であって、そこに経済悪化の原因を求めても本質的な問題の解決にはなりません。
いま、国民の多くが不安に思っていることは賃金や所得が増えないという点。そうした中で単に物価だけが上昇すれば、広く一般の国民の生活は苦しくなるばかりです。雇用の確保と賃金の増加があっての好景気になること、その結果として適度なインフレ率を伴うことが理想なのです」
岩本氏はかねてより、賃金や所得が上がらないまま物価と金利が上がれば、中間層が疲弊する「スクリューフレーション」という現象を起こし、所得格差が広がることでかえって日本経済を停滞させると警告を発してきた。
巷では、企業業績の回復から賃金やボーナスアップの声も聞こえた1年だったが、広く庶民まで潤ったわけではない。岩本氏が続ける。
「厚生労働省が発表している『毎月勤労統計調査』の賃金指数をみると、確かに『現金給与総額』や『きまって支給する給与』は上がっていますが、これは賞与・一時金・残業代などが増加した結果で、実態経済への長期的な影響としては心許ない。まだ基本給などの『所定内給与』が上がってくる段階にはないのです」
こうした経済不安に加え、来年4月以降の消費税増税が「タイムラグを伴って実態経済を圧迫する可能性が非常に高い」と岩本氏は指摘する。
“景況感”ばかりがダラダラと続く日本経済。2014年はその真価が厳しく問われる年となる。