初日の出にはまだ早い元旦の早朝5時半。身を切るような寒さのなか、天皇は宮中にある神嘉殿の前庭に出て、かがり火のなか、地面に敷いた畳に座り、皇祖神・天照大御神(あまてらすおおみかみ)が祀られる伊勢神宮の方角を向いて拝み、次いで東南西北の順に四方の神々に向かって拝む。天皇が新年最初に臨む宮中祭祀「四方拝(しほうはい)」である。
皇室ジャーナリストの久能靖氏はこう解説する。
「元旦の四方拝は、平安時代中期に始まったと考えられ、年災を祓い、五穀豊穣、国家国民の安寧、皇室の発展をお祈りする儀式です。潔斎(かかり湯で心身を清める)を済ませたあと、天皇しかお召しになれない黄櫨染御袍(こうろせんのごほう)という装束をお召しになり、神嘉殿の前庭で執り行なわれます。しかし、陛下がご高齢であることが考慮され、近年は御所にて、モーニングコート姿で遥拝されています」
ご負担軽減のために簡略化されたが、実は昭和天皇も晩年、同じような形で祭祀を継続した。12月23日で80歳というご高齢にもかかわらず、四方拝が始まる1時間以上前には起きられるといい、祭祀に向けた並々ならぬ覚悟が感じられる。皇室ジャーナリストの神田秀一氏はこういう。
「大晦日には身を清める潔斎をされ、元日は夜明け前から四方拝を行ないますから、陛下にはのんびり年越しをする余裕はありません。四方拝が終わっても、正月三が日は祝賀の行事が続きます。一般家庭の正月のように、皇太子や秋篠宮のご一家と家族団欒で……などということは皇室ではあり得ないのです」
※週刊ポスト2014年1月1・10日号