中国では江沢民・元国家主席ら長老指導者に対して、引退後の生活を保障する最優遇措置がとられているが、習近平指導部が打ち出したぜいたく禁止令にしたがって、優遇措置を一部制限する方針を検討し始めたことが分かった。葛剣雄・復旦大教授が中国共産主義青年団(共青団)機関紙「中国青年報」に明らかにした。
葛教授は少数民族や共産党以外の党派など全国人民統一戦線である中国人民政治協商会議(政協)委員を兼ねており、中国政府に引退幹部への優遇措置の見直しを求める意見書を提出していた。最近、その返答が寄せられ、中国政府はこれまでの引退幹部の優遇規定について、改定を検討しているというもの。
中国では党政治局常務委員を務めた長老指導者に対して、公用車などのほか、警備員が6人、個人事務所職員2人、医師1人、看護師1人がつくなどとなっている。
現在これらの好待遇を受けているのは80歳を超えた長老指導者9人、これに加えて、胡錦濤・元主席ら2013年引退した政治局常務委員経験者7人を加えると、16人になる。
このほか、常務委員経験者ほどではないが、政治局員や全人代副委員長、副首相、中央軍事委員の経験者も厚遇されている。彼らは数百人規模で、公用車に運転手1人、警備員2人、事務所職員2人、コック1人、医師1人が派遣されており、経費が削減されれば、かなりの額の国費が浮くことになる。
長老幹部の優遇措置の制限には、経費や人員ばかりでなく、引退後の公的な発言を規制することも検討されている。2012年の第18回党大会前には江氏や朱鎔基元首相、李瑞環・元政協主席、李鵬・元首相ら長老幹部が公的な場に出て、自らの政治的影響力を行使しようとの動きが目立った。
習近平指導部内では、これらの引退した長老幹部の政治的な発言を規制しようとの動きもあるという。
これについて、中国事情に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は「かつて長老指導者の政治的動きを阻止しようとした胡耀邦・元党総書記や趙紫陽・元総書記はトウ小平氏ら長老指導者の逆鱗に触れ、逆に失脚するという憂き目を見た。習主席らも下手に動けば、胡耀邦氏らの二の舞を踏みかねない。慎重にやらないと、政治的な嗅覚が鋭く、権力闘争にも長けた長老も多く、逆に“返り討ち”に遭う可能性も否定できない」と指摘する。