お正月料理に欠かせない「お雑煮」。西と東では味付けも餅の形も違うのはよく知られているが、西でも細かく別れている。食の分水嶺について、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、本日は元旦ということで、この食べ物に触れないわけにはございません。
雑煮。過去たくさんの研究者がさまざまな調査で研究してきている食べ物です。雑煮は「神様のお下がりを人間がいただく」という意味が込められ、「神饌」となる地域の生産物を具として、その土地や家において長く受け継がれてきました。
最近では、転居に伴う移動や、人口の一極集中に加えて、食の多様化が進み、「元旦は夫の実家の味の雑煮。2日は私の実家の雑煮」(大阪府・38歳・♀)、「全国のお雑煮からおいしそうな具やレシピを、部分的につまみ食い」(東京都・32歳・♂)というように家庭ごとにアレンジが加えられるケースも増えました。
日本の食はよく東西にわけて例えられます。例えば雑煮なら「東はすまし、西は味噌」「西の丸餅、東の角餅」などと言う人がいますが、味についてはかなり偏った捉え方で正確に言うと「近畿(付近)のみ味噌」という捉え方が、より実情に近いと言えるでしょう。
「伝えてゆきたい家庭の郷土料理集」(婦人之友社)に載録された全国213の地域での大規模調査や、研究発表された論文を横断して見てみると、各県内の大部分が「味噌」という地域は、大阪、京都、兵庫、和歌山、香川、徳島、福井くらいで、石川、滋賀、三重、奈良あたりは「すまし」と「味噌」が混在しています。
実際、日本の食の分水嶺──というか、日本の“分食嶺”は、北陸三県の両白山地から、滋賀県・琵琶湖の東岸を通って、鈴鹿山脈、紀伊山地と続く線上にあり、「東のチャーハン、西のヤキメシ」の呼称問題や、カレーや肉じゃがに入れる肉は「豚か牛か」問題など、数え上げたらきりがありません。
もっとも東西でその様式や呼称がわかれる食べ物でも、分食嶺以西の勢力図はまちまちです。雑煮の場合は、兵庫県と鳥取県・岡山県の県境から四国の徳島県・高知県境へと伸びるライン上で、再び逆転現象が生じ、以西はほとんどが「すまし汁」に。つまり「味噌」味は、近畿地方とほぼ隣県のみの雑煮のスタイルというわけです。
一方で、「西の丸餅、東の角餅」という解釈はほぼ間違いのないところですが、餅の焼き方に目を向けてみると、九州などは県どころか市町村単位で「焼く/煮る」が混在します。さらに「ぜんざい発祥の地」とも言われる島根県・出雲地方(「神在(じんざい)」がなまって、「ぜんざい」になったという説も)では小豆雑煮で正月を迎えるなど、雑煮には無数のバリエーションがございます。
毎正月にいただく雑煮ひとつとっても、全国津々浦々に祀られた八百万の神でつながる、日本の正月らしい風習だという事実をいま一度噛み締めつつ、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。