昨年12月、厚生労働省がブラック企業の実態調査を行ったところ、電話相談や内部告発によって「問題あり」とされた5111事業所のうち、82%にあたる4189事業所で労働基準法違反にあたる長時間労働やサービス残業などが見つかったという。
それにしても、2000年代中ごろからブラック企業という言葉が広まり、社名を公表する動きも盛んになっているにもかかわらず、従業員を不当に酷使する企業が後を絶たないのはなぜなのか。
昨年7月31日にブラック企業の根絶を目指して被害対策弁護団を結成させた弁護士の佐々木亮氏(旬報法律事務所)に話を聞いた。
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――ブラック企業は社会問題化しているが、言葉の定義は曖昧だ。
佐々木:一言でいえば「働く者を使い潰す企業」です。若者を大量採用し、人件費を浮かせるために長時間労働を強いたり、辞めさせたい社員にパワハラ、いじめなどをして離職に追い込んだりするのが典型的な手口です。そうした企業で我慢しながら働いていると、結果的に精神の病になり、最悪の場合は自ら命を絶ってしまう人もいるのです。
――契約時に「残業代を支払わない」といわれて、長時間労働を普通だと思っている人もいる。
佐々木:働く人の認識が足りないことは事実。ブラック企業は「労使間の合意ができている」などと、さまざまな理屈をつけて残業代を支払わないようにするのが常套手段です。でも、騙されてはいけません。雇用形態に関係なく、1日8時間、週40時間を超えて働かせた場合、使用者は労働者に割増賃金を払わなければ労働基準法違反になります。
――かつて気象予報最大手のウェザーニューズでは、入社後に“予選”と呼ばれる試用期間で長時間働かせ、成績を競わせていた実態もありました。
佐々木:2008年に自殺した同社の社員の“予選期間”中の残業時間は月200時間を超えていたといいます。気象予報士といえば、ロマンチックでなりたい職業の上位にランクする仕事。それを逆手に取って長時間労働を強いるなどもってのほか。こうしたケースを「やりがい搾取」と分類する専門家もいます。
――次に、パワハラの違法性は、長時間労働などと違って判断が難しい。
佐々木:ひどい叱責・暴言を繰り返されたり、「追い出し部屋」など仕事と無関係な作業をさせられたりすることがパワハラにあたりますが、行為の程度や頻度によって違法かどうか判断が難しい場合があります。
ただ、退職強要にあたるようなケースは会社側の責任を追及できます。最も有効なのは、メモやICレコーダー(自動録音機)などで証拠を残しておくことです。同僚の証言も貴重な証拠となることがあります。
――その他、ブラック企業の事例で目立つケースは。
佐々木:よくあるのが、社員研修と称して社員に無理難題を課し、精神的に追い込んでいくケースです。私の聞いた事例では、IT企業の泊まりがけ研修で食事や睡眠の時間を与えなかったり、マッサージチェーンの研修で社員をローソクの灯りだけの暗い部屋に閉じ込めて幹部への忠誠を誓わせたり……。ここまでくると“洗脳”に近く、社員の人格を無視した卑劣な行為といえます。
――カリスマ社長のいる企業は、社員に従属意識を植え付ける傾向が強い。
佐々木:確かにカリスマ社長は社員が自分と同じぐらい仕事ができるのが当たり前だと思っているから過酷な労働を強いるのでしょう。でも、働く側は常識では考えられないような過酷な命令や、常識外れの命令に従う必要はありません。