【書評】『名軍師ありて、名将あり』小和田哲男/NHK出版/1365円
【評者】内田和浩
V6の岡田准一が主役をつとめる、2014年のNHK大河ドラマ『軍師 官兵衛』(1月5日放映開始)。主人公は、戦国時代から安土桃山時代にかけて、豊臣秀吉の軍師として活躍した黒田官兵衛。江戸時代の福岡藩52万石の礎を築いた人物である。
秀吉をはじめ、戦国に覇を唱えた名将には、必ずこれをサポートする名軍師がいた。戦国時代研究の第一人者で、同ドラマの時代考証を担当する著者は、官兵衛を「秀吉に天下を取らせた男」と評価する。本能寺の変で織田信長が死んだとき、茫然自失となった秀吉に「あなた様が天下を取るべきです」と官兵衛が叱咤した話など、本書には官兵衛の軍師ぶりを示す逸話がふんだんに盛り込まれている。
軍師といってもただ軍略を練るだけではない。小田原城攻めにおいて官兵衛は、独りで城に乗り込んで敵の北条氏を説得し降伏させたという。さまざまなエピソードから読みとれるのは、官兵衛は敵と争うことなく味方につける才能を持った男だということだ。とかくこれまでの小説やドラマで描かれてきた官兵衛は、天下をとってやろうという、ギラギラした野望の男というイメージがあるが、本書が解き明かしているのは、説得上手な平和主義者という実像だ。
著者は、これまでも『秀吉』『功名が辻』『天地人』『江~姫たちの戦国』など数々の大河ドラマの時代考証を担当してきた。ただ、ドラマ作りの現場では、演出が加えられて史実と違う内容になることもしばしばだといわれる。
『秀吉』では、秀吉役の竹中直人がアドリブで「天ぷら食いてえ~!」(戦国時代に天ぷらという料理はまだない)とやってしまい、周りがあわてたという逸話もある。なんと、今回の『軍師 官兵衛』の秀吉役は竹中直人。またもや史実を超越したハイテンションの演技を見せてくれるかもしれない。本書で、官兵衛をめぐる史実がドラマでどう脚色されているかをチェックしながら見るのも面白いだろう。
本書では黒田官兵衛のほか、官兵衛のライバル的存在であった竹中半兵衛(『軍師 官兵衛』では谷原章介が配役)など8人が採り上げられている。才能を武器にして戦国の世を懸命に生きた軍師たちの姿に心が躍る一冊だ。
※女性セブン2014年1月9・16日号