歴史に関する数字の捏造、つまり被害者数を多く見積もる「インフレ」は、中国による「南京大虐殺の犠牲者30万人説」などが知られているが、最近は韓国のほうがひどい。室谷克実氏(元時事通信ソウル特派員)が解説する。
* * *
被害者数を多く見積もるインフレは従軍慰安婦問題にも起きている。昨年11月5日、韓国の国会議員は「韓国政府が推定する日本軍慰安婦の被害者は8万~20万人だが、確認できているのは243人のみだ」と、女性家族省の資料を基に明らかにした。
韓国ではこの推定のうち、最大にとった20万人という数字だけがひとり歩きし、2012年にニューヨーク州に建てられた従軍慰安婦記念碑にも20万人と刻まれている。
しかし、そもそも20万人という数字は、1970年にソウル新聞が「勤労奉仕するための挺身隊として動員された日本女性と朝鮮女性の総数」として挙げたものだ。挺身隊と慰安婦はまったく別物である。
しかし韓国側は意図的にかそれを混同して「インフレ」を繰り返し、現在の主張に至ったのだ。ちなみに、慰安婦問題についてもっとも信頼性の高い調査、研究を行なった現代史家・秦郁彦氏の推計では、慰安婦の数は多くて2万人である。しかもそれは、朝鮮女性、日本女性らの総計だ。
最近、日本企業に対する損害賠償訴訟が行なわれている強制徴用問題でも、戦争中に朝鮮半島から日本に徴用された朝鮮人の数については、かねて訴訟を行なう原告ら民間が200万人といってきたが、昨年ついに政府機関までがその数字を主張し始めた。
だが、国民徴用令の朝鮮への適用は1944年9月から翌年3月までのわずか7か月にすぎない。終戦直前、日本内地に居住する朝鮮人の数は約200万人だったから(日本の外務省発表)、韓国側の主張通りだとすると、そのすべてが徴用労働者というおかしなことになる。
これに加え最近、関東大震災(1923年)のときに虐殺されたとされる在日朝鮮人の数についても「インフレ」が始まった。虐殺が事実だったにせよ、当時の日本政府(内務省)の調査では231人、当時上海にあった大韓民国臨時政府の発表でも6661人とされてきた。
現場から遠く離れた韓国側のその主張ですら根拠薄弱だが、去年、「ドイツ外務省が発行した資料を韓国の学者が分析した結論」として朝鮮日報が2万3058人という数字を持ち出し、「関東大震災」をホロコースト、南京大虐殺に次ぐ人種抹殺として「関東大虐殺」と改称しようと主張する報道を行なった。その資料の正当性は一切示されていないが、韓国のネット住民がこれに呼応し、「2万3000人」がひとり歩きを始めている。
韓国は自らの歴史を「半万年(5000年)」と吹聴する。自国の歴史をいくら「インフレ」させようが結構だが、それが国際的な反日宣伝で行なわれるとすれば大問題だ。反論しなければ、数字が一人歩きし、「史実」として定着しかねない。
※週刊ポスト2014年1月17日号