2014年、日本の農業が歴史的な転換点を迎えようとしている。交渉中のTPP(環太平洋経済連携協定)の進展を背景に、減反政策の廃止や補助金見直しなど、これまで“聖域”とされてきた農政の根幹にメスが入れられるという。だが、経営コンサルタントの大前研一氏は、政府・農林水産省主導の改革は日本の農業問題の根本的解決にはつながらないと主張する。以下、大前氏の解説だ。
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政府に手厚く保護されてきた日本の農業は今、どうなっているか? 農家の高齢化が進み、農業就業人口(15歳以上の農家世帯員のうち、調査期日前1年間に農業のみに従事した者または農業と兼業の双方に従事したが、農業の従事日数のほうが多い者)の平均年齢は65.8歳、基幹的農業従事者(農業就業人口のうち、ふだんの主な状態が「仕事が主」の者)の平均年齢は66.2歳に達している。企業でいえば、定年を越えた人が過半数を占めているのだ。
若者が農業を継がないのは、産業として魅力がないからである。普通の国は、こういう状況になったら農業移民を入れて若返りを図るが、日本は移民に門戸を開こうとしない。このままいけば、日本の農業は担い手がいなくなって消滅の危機に瀕するだろう。
にもかかわらず、農水省は「食料安全保障」を主張し、それを日本の農業を保護する大義名分にしている。そこで私が農水省や自民党に「食料安保とは何か?」と問うと、「いざという時に糧道を断たれないこと」だと言う。
「では、いざという時とはどういう時か?」と問うと、「日本が世界中を敵に回した時」だと言う。「ならば『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』と宣した平和憲法を持つ日本が、世界中を敵に回して糧道が断たれる時というのはどういう時なのか?」と問うと、もう彼らは答えられない。
さらに「もし日本が世界を敵に回したら、最初になくなるのは石油ではないか?」と問うと、「石油は180日分備蓄している」と答える。だが、石油がなくなれば、耕運機やトラクターやコンバインは動かないし、肥料も作れないから、コメは作れなくなる。ということは、コメも180日分の備蓄があればよいことになる。いくら農業を保護したところで、どうせそれ以上、日本は持ちこたえられないのだ。
そもそも、糧道が断たれるような状況に日本が追い込まれたら、石油だけでなく石炭も鉄鉱石もレアアースも入手できなくなるし、輸出もできなくなるので、コメだけ自給できたとしても「ジ・エンド」だ。つまり、「食料安保」という概念自体が、虚妄なのである。
※週刊ポスト2014年1月17日号