生ける伝説、400勝投手・金田正一氏と球界きっての理論派・桑田真澄氏の対論が再び実現した。投手はコントロールよりもスピードこそ大事だと主張する金田氏は、こう持論を展開する。
金田:球が速ければ、多少コントロールがなくてもかえって武器になる。昔、阪急に山口(高志)という選手がいたが、とにかく球が暴れるのでストライクの見極めが難しかった。現在では、巨人の澤村(拓一)に同じものを感じるな。
桑田:確かに澤村の素質は素晴らしい。しかし昨年の成績は5勝10敗(防3.13)と奮わなかった。だからこそ、彼は考え方を変えないといけないと思います。
彼は剛速球で相手を“制圧”して抑えるといっていますが、150キロ超の球は1試合で数球で、ほとんどが145キロ前後です。スピードガンと戦っている間はいい成績を残せません。彼こそ球速よりも、スピン量やキレ、コントロールを重視すべきです。
金田:違う、違う。あの程度の投手がなまじっかコントロールをつけたふりをすると、それこそ打者の餌食になるんだ。澤村も同じで、荒れるから澤村なのであって、そうでないと二束三文の小僧だ。そもそも周囲がアレを過大評価しすぎなんだよ。それを勘違いして最近、コントロールがどうのと能書きをたれるから……。
桑田:上げるのか下げるのか、どっちですか(笑い)。
金田:アイツは、かつての村田兆治(ロッテ)を目指せばいいんだ。兆治も球は速いがノーコンで、怖くて誰も使わなかった。だが、いつも加減せず全力で投げていたところに魅力を感じて、ワシは監督としてアイツを使ったんだ。
そして忘れもしない、1973年の南海との大阪球場での試合。無死満塁の場面で、ワシは兆治をリリーフでマウンドに送った。スタンドも両軍もどよめいたね、ノーコンが出る場面じゃないからな(笑い)。ワシは「いくら四死球を出して試合をブチ壊してもいいから、最後まで全力で投げろ。絶対に代えない」といって送り出したんだ。それで三者三振だよ。それから兆治は自信をつけて変わったね。
桑田:澤村もリリーフのほうが成績を残しています。短いイニングだから全力で常時150キロのボールが投げられ、それが良い結果を生んでいるんですかね。
金田:(満足そうに)その通りだよ。アイツも、自分が9回投げる仕事には向いてないことに早く気づいて、リリーフに行けばいいんだ。まァ、澤村を8回、9回に送るのは、監督は勇気がいるがな(笑い)。ああいうタイプは本能のままに全力で投げさせないとダメだ。
※週刊ポスト2014年1月17日号