1980年代に華々しいデビューを飾り、アイドル黄金期を築いた代表格といえば、松田聖子(51)と中森明菜(48)の名が真っ先に出てくるだろう。ノンフィクションライター・安田浩一氏が、2人の「肖像」を綴る。
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聖子は過剰なまでにライバルと目されていた明菜を意識していた。当時、CBSソニーのプロデューサーとして聖子を担当した酒井政利が話す。
「宣伝担当の若手社員から『聖子が明菜さんを意識し過ぎて困っている』と相談を受けたことがあった。レコードの売り上げから、出演番組まで、明菜のことであれば、聖子は何でも知りたがったのです」
一方、自我にこだわる明菜は、まるで聖子を意識していなかった。明菜のマネージャーを務めた名幸(なこう)房則が振り返る。
「明菜は普段から聖子さんの歌を好んで口ずさんでいました。もともと聖子さんのファンでもありましたし、ライバルといった意識を持ったことはなかったと思う」
事件が起きたのはTBSの歌番組「ザ・ベストテン」に明菜と聖子が初めて揃って出場したときのことだった。
司会の黒柳徹子が、二人に対してそれぞれ「お互いをどう思っているのか」と質問した。即座に「ライバルです」と答えたのが聖子だった。一方、明菜はちょっと考え込んだ表情を見せた後、さらっと「別に……」とだけ口にしたのである。
「スタジオ脇で見学していた私はその瞬間、あちゃ~と頭を抱えてしまいましたよ。先輩を前にしてなんてことを言ってくれたんだと。でも、明菜からすればまったく悪気はないんです。
ライバルだと意識していないと伝えたいのに、言葉足らずなものだから、ぞんざいな言い方になってしまうんです」(名幸)
しかし、聖子はこうしたライバルを過剰なまでに意識することで自らを高めていったのだった。
(文中敬称略)
※週刊ポスト2014年1月17日号