400勝投手・金田正一氏と理論派・桑田真澄氏の対論が再び実現した。ファンならずとも惹きこまれるピッチングをめぐる瞠目のやりとりを紹介しよう。
金田:開幕戦で打ち込まれると、味方の攻撃時にブルペンに走ったもんだ。そこで投げ込んで、何球か投げているとポンとハマる時がある。そうなれば心配ない。
よくいう、何球も投げてヘバったら球が走り始める感覚はこれと同じ。要は上体が前に突っ込んでしまっているから球が走らなかったんだ。疲れて上体の力が抜け、下半身主導で投げるから「溜め」ができるんだ。
桑田:この感覚を覚えるには、カーブを投げればいいんですよね。
金田:その通り。カーブこそが溜めを教えてくれるんだ。今のヤツらは手先でコチョコチョ曲げる球ばかり投げるからダメなんだ。
──ツーシームとか。
金田:は? なんだそりゃ。
──えっ、ご存じないんですか?
桑田:一般的なストレートから、握りの向きを変えて、縫い目に人差し指と中指を沿わせて握るボールです。少しムービングするので、最近、多用されていますね。
金田:そんなもの邪道じゃよ。ボールはオーソドックスに握らないとダメ。最後まで縫い目に指先が引っかかるようにして投げないと。
桑田:縫い目の感覚が大事なのはカーブも同じですよね。そしてカーブは変化球の中で一番難しい。上体が前に突っ込んだら投げられないんです。僕も試合では、初球にストライクを取ると、2球目はボールでいいので捕手のサインに首を振ってカーブを投げていました。それでフォームを良くするんです。序盤でいいカーブを投げて溜めができるようになると、今度は直球が良くなり、カーブもさらにキレが出てくる。
金田:ワシも同じだったな。しかし、最近のヤツらのカーブは酷いな。ションベンカーブばっかりだ。
桑田:球が、リリースポイントから落ちていっていますよね。いいカーブは、一度浮き上がってからストンと落ちる。僕も投げることができたので、甲子園ではストレートとカーブだけで戦えました。今は浮き上がるカーブを投げることができる選手がなかなかいない。一度見てみたかったのですが、金田さんのような超一流のカーブは、浮き上がってから、ストンではなくドンと変化するんでしょうね。
金田:そう、重く落ちる感じだ。ワシがスローカーブを投げると、捕手はミットを上に向けて構えていたよ。そこにスポンと収まる。99%ストライクにできたな。審判には“上を向くな”とマウンドから叫んでいた。上を向くと高めのボールと判断されてしまうからな。もはや芸術の域だよ。
桑田:すごいなァ。スローカーブはなかなかコントロールができない最も難しい球ですよ。
※週刊ポスト2014年1月17日号