興行収入1.5億円を超える大ヒットを記録した『エンディングノート』でデビューを飾った砂田麻美監督(35才)。彼女の2作目となる『夢と狂気の王国』(公開中)が話題だ。『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』を製作中のスタジオジブリでの製作秘話から、監督としての思いまでを語る。
実父の最期を描いたドキュメンタリー映画の女性監督。そう聞くと、髪をきりりと結び、パンツ姿で製作現場を颯爽と歩く、そんな女性を想像しがちだが、取材現場に現れた、砂田麻美さん(35才)は、華奢な体で、パープルを基調にしたワンピースが似合う、物腰の柔らかい女性だった。
そんな彼女が、スタジオジブリを描こうと思ったきっかけを訊くと、意外な言葉が返ってきた。
「2012年の夏、ものすごく暑い台湾でマンゴーかき氷を食べていた、その瞬間でした。スタジオジブリのブルーレイの宣伝に出てもらえないか、というメールがとある会社から届いたんです。
世の中に人はいっぱいいるのに、なんで私が? それまでジブリとはまったく縁がない私になぜ!? と驚きましたが、ジブリ作品を世の中に伝える役をいただけるなんて、とても光栄なことだとも思ってお引き受けしたんです」(砂田さん・以下「」内同)
その後、話がドキュメンタリー製作に至るまでには、ジブリの鈴木敏夫プロデューサー(65才)のOKがなかなか下りず、紆余曲折あったそうだが、ドキュメンタリー映画として、宮崎駿監督(73才)の映画製作風景を追った企画はこれまでなかったことから、『風立ちぬ』の製作現場に密着することとなる。
「ジブリの作品はもちろん見ています。小さいときに見た『となりのトトロ』も好きだし、『崖の上のポニョ』では、ポニョが即席ラーメンを食べながら寝ちゃう場面で、“この監督は、子供を本当によく知っている、よく見ている”というのが伝わってきて、感動しました。
また、『ポニョ』の主題歌が流れるエンドロールで、『このえいがをつくった人』として全出演者とスタッフの名前が役名や肩書などもなしで、ただ50音順に表記されて、最後に『スタジオジブリ』『おわり』となっているのにも驚いて、そのとき組織として面白いところだなあ、と思いましたが、よもや自分がかかわることになろうとは…」
砂田さんは、1978年東京生まれの35才。慶應義塾大学在学中から映像制作に携わり、卒業後はフリーの監督助手として河瀬直美、岩井俊二、是枝裕和ら人気監督の製作現場に参加。そして、『エンディングノート』で監督デビューを飾り高い評価を得る。
「ジブリの宣伝を」という依頼を受けたとき台湾にいたのも、当地で公開された同作品のPRで出向いていたからにほかならない。
「どんな場所でどんな人が働いているのか、ジブリに足を踏み入れるのがすごく楽しみでしたが、行ってみて、不思議な感覚に包まれたんです。私だけではなく、1度でも行ったことがある人はみな、不思議な空間だと言うんですけど、都心からわずか20分離れているだけで、建物が奇抜なわけでも、とくにユニークなものがあるわけでもない。
でも、帰ってくると、本当にあれは存在していたのかしら、と思うんですね。結局1年間ほど通い続けましたが、行けば幸せな気持ちになれる、この思いは最後まで変わりませんでした。働いている人はとても穏やかですし、他の社員と同じごく普通の事務机と椅子に宮崎駿監督は、十何時間もずっと座って絵コンテを描いていらっしゃる。
そんな監督のすぐ横にみんなが使う電子レンジがあるので、ときどき『チーン』なんて音がする。あれだけの巨匠が、本当にすごいと思いました」
※女性セブン2014年1月23日号