命を懸けて国のために戦うことが是とされている時代の中、生まれたばかりのわが子と愛する妻の写真を握りしめ、何度も「生きて帰りたい」と口にする。最後には特攻として出撃するのだが、その時の彼の表情に、観客は言葉を失い、劇場は静まり返る――。
累計発行部数470万部を超える大ベストセラー小説が原作の映画『永遠の0』。太平洋戦争の天才的な戦闘機乗りでありながら「帝国海軍一の臆病者」とされた宮部久蔵を好演しているV6・岡田准一(33才)が話題だ。
その岡田は、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』にも主演している。秀吉ばかりでなく、家臣たちからの信頼も絶大で、一方で厳しくも愛情深い父親を演じる。父親役が続く岡田に、本誌がインタビューをすると、真っ直ぐな目でこう話し始めた。
「父親が近くにいなかったので、自分がどんな男になりたいかということをずっと考えて生きてきました」(岡田・以下「」内同)
大阪に生まれた岡田、両親が離婚したのは小学2年生の時だった。その時のことを岡田自身がこう振り返る。
「なんか家族で会議をしていて、のぞいてみたら“のぞくな”って言われた絵と、親父が歩いてって“じゃあな”って言って出て行った絵だけがしっかり焼きついていて。それを鮮明に覚えている」
その後、ピアノ教師をしている母が女手ひとつで岡田と姉を育てた。母は夜遅くまでレッスンをしていたこともあり、「これでご飯を食べて」とお金だけ置いて行くことも多く、小学生の岡田は「放っておかれている」と感じたこともあった。しかし同時に、母の決意のようなものが岡田には伝わっていた。
「母からは“男として責任を持って自分の人生を生きなさい。面倒を見ないから、将来、あなたに面倒を見てもらう気もない。勉強をしろとも言わないから、責任を持って生きなさい”って言われました」
決して放任ではない、シングルマザーとして生きていくには、幼くとも息子を信頼するしかなかったのだ。だからこそ母は、息子に自分の覚悟をこうも話していた。「もしもあなたが悪いことをしたら、私があなたを殺してでも責任を取ります」と。
一方で母は、いつも岡田を一番風呂に入れていた。岡田は「今思えば古風」と言うが、「風呂は男が先に入るもの」という母の考えだった。中学ではラグビー部に所属し、いつも練習で泥だらけになって帰ったが、それでも母は、姉よりも先に岡田を風呂に入れ続けたという。岡田は言う。
「それで、自分がどういう大人になるのか、男になるのか、というのをずっと考えて生きてきたんです。育ててくれたのは母ですが、それでもぼくはずっと父の背中を追いかけていた」
それから岡田は学校の先生や知人男性をじっと観察するようになった。この人のここが好きだとか、嫌いだとか、この人のここを真似しようとか…。そういうふうに思って全部人の真似をしていたときに物足りなさを感じ、本の世界に没頭するようになった。特に歴史が好きで、黒田官兵衛もそのひとりだった。
※女性セブン2014年1月23日号