――前刀さんは、感性をとても大事にされていますね。
前刀:理屈だけで攻めていくと、みんなが同じところに行き着く。数学の問題に解答があるように、ロジカルに物をつきつめて考えていくと、似通った答えが出てくるので差別化ができない。自分らしさが出ないんです。ところが、感性で物事を感じたり、考えていくと個性が出てくる。それが、世の中から求められ、かつ自分だけの強みである“スイートスポット”にも繋がるんです。
五感それぞれで感じたものを集約していくことを大切にしたほうがいいですよ。感覚的に判断したことが後々正解だったと思った瞬間ってあるでしょう? そういう経験をすることが大事です。そうすると自分を信じられるようになる。そこを疑っておっかなびっくりしていると、自分が感じたことが正しくないという思考回路になる。するとどんどん鈍くなる。拠り所がないので、みんなが何を言ってるかに向いてしまうんです。
――ご自身の職を生涯にわたって新しい事業を生みだしていく“ビジネスディベロップメント”とおっしゃっていますね。
前刀:これまで取り組んできた仕事は、前例がないから大変だけど、だからこそ楽しい。前例って言葉を人はよく使うけど、前例と誰かが信じて疑わないことを初めてやった人がいて、その時には前例はなかったですよね。しかも、その人がリスクをとってそれをやっていなければ、皆さんが働く会社もないんです。
日本人って、変わらない力はめちゃめちゃ強いですよね。どう見たって今の時代に合わないのに、これは決まりですからって。イノベーションだとか、新しいブレイクスルーが必要だと言いながらしない。かつダイバーシティ(多様性)だと言いながら画一的に進んでいる。最近のビジネスキーワードトップ3ってイノベーション、ダイバーシティ、グローバリゼーションなんですが、グローバル化も含めてぜんぜんできていないことが問題だと思いますね。みなさん、人と違うことを恐れず、自分らしい人生を生きましょう。
【前刀禎明(さきとう・よしあき)】
1958年生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学大学院管理工学修士課程修了。人材教育会社リアルディア代表。『めざましテレビ』(フジテレビ系)で独自コーナー「さきつぶ」を担当。ソニー、ウォルト・ディズニー・ジャパンなどを経て1999年にライブドアを創業。2004年にアップル米国本社のマーケティング担当副社長に就任。同年アップル日本法人代表取締役を兼務。