「iPodの仕掛け人」と呼ばれ、アップル日本法人の代表取締役として、アップルの世界戦略の策定とマーケティングに大きく貢献したことで知られる実業家の前刀禎明さん(55才)。
職歴はソニーに始まり、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー・ジャパン、AOLジャパン、ライブドア創業、アップルとジャンルの違うさまざまな企業を経験。ライブドアでは民事再生という困難も乗り越え、常に道を切り開いてきた。著書『人を感動させる仕事』(大和書房)では、凝り固まった考えから抜け出した独自な思考、ワクワクする働き方ついて綴った前刀さんに、多くのカリスマ経営者から学んだこと、そして、チャレンジを続けられる理由を聞いた。
――常に新しい道、困難な道へチャレンジし続けられるのは?
前刀:アップルのスティーブ・ジョブズ、AOLのスティーブ・ケースといった経営者の仕事を実際に見てきたこともありますし、取引先の倒産でライブドアの民事再生を余儀なくされたことも含めて色々な経験を経てたくましく、ある意味鈍感になってきたところがありますね。まっとうな神経だとつらすぎて生きていけないと言いますか(笑い)。
――どうしたらたくましくなれるでしょうか?
前刀:自分の人生を好きになること。自分の身に降りかかってくることをいちいちネガティブに受け取ってたら、つらくてやってられないんですよ。しかもそれを環境や人のせいにするとこれまたつらいんですよ。自分の意に反することが起こっても、悔やみきれないとしても、自分があの時こうしなかった、努力してこなかったからだと思うとある種のあきらめもつくんですね。一方で、これから先の人生は全て自分次第だというところに行き着く。そう思えると、たくましくなるんですよ。
――アップル時代は、スティーブ・ジョブズ氏からかなり信頼を得ていたとのこと。貴重な2ショット写真もお持ちだそうですね。
前刀:入社する前の最終面接がスティーブで、当然ながらこちらはめちゃくちゃ感動するわけですよ。終わったときに「スティーブ、記念写真撮らせてくれない?」って言ってみたんだけど、ダメに決まっていますよね。彼はそのときに「お前がアップルに入れたら撮らせてやる」と。
入社して最初の出張の時に、アップルストアの総責任者との約束の時間に行ったら、部屋の中で総責任者とスティーブが話しているんです。待っている姿に気がついたスティーブが「入ってこい」って合図を。当時はあまり流行っていなかった日本の銀座のアップルストアについて意見を聞かれたので、「日本でアップルはブランドを構築しなければいけないから。銀座は最高の場所だと思うよ」と言ったら納得してくれて。話がひと段落したところで、「ちょっと待ってスティーブ、約束したよね?」と言って、写真を撮らせてもらったんです。
社内のカフェテリアにランチに行ったときにも、ぼくはせっかくの機会だから「ハイ、スティーブ!」って声をかけるんだけど、他の人は誰も声をかけないんですよ。ぼくが話しかけると、同僚が慌ててやって来て「ヨシ、話しかけちゃダメ、リスキーだから」って。スティーブの機嫌損ねると即クビになるから話しかけないほうがいいよって言われましたね。
――ジョブズ氏から学んだことは?
前刀:スティーブを数人で囲むエグゼクティブ・ミーティングに参加させてもらっていた環境は、本当に恵まれていましたね。「このミーティングで本社以外の人間で出るのは世界でお前が初めてだ」って言われましたから。さらに人数を絞って、広告やCM、商品のパッケージを決めるミーティングにも、出させてもらっていたんです。
彼はパッケージなど細かいところまで自らチェックして指示出しするんです。ぼくも同じことをライブドアの時にもやっていたので、似てると思いましたね。彼の価値観、いわゆる感性訴求にも共感しました。彼はアップルを再生するときに、「アップルは、ディズニーやソニーやナイキのように世界中の人から愛されてリスペクトされるブランドになる」と言ったんです。そのうちの2社をぼくは経験しているので共感の度合いも高かったです。