――若い人たちがこれからを生きるために必要な力とは?

前刀:デジタルなものに何も毒されない、自分らしくいる力、自分を信じる力ですよ。それこそ東日本大震災の時なんて、被災地のかたは「個力」と言っていましたね。生死をさまようぎりぎりのところで生きようというときには、デジタル依存度が高いことよりも個人の力が大切だと思います。

 あと、「どうせ自分なんて」って絶対に言っちゃダメ。何を取り組むにもそこに楽しさを見出すことができるかどうかが大切です。人生で壁にぶち当たった時に乗り越えたらそれは力になるし、自信になるんですよ。運動で体幹を鍛えるように、心にも幹をしっかり持つこと。もっと、いい意味で自己中になってほしいですね。

――学生が仕事選ぶうえで大切にしてほしいことは?

前刀:仕事を選ぶときには、自分はどんな仕事をするとうれしいか、感動できるかを考えるといいでしょう。情熱を持てる仕事ってつきつめていくと、自分の心がうれしい、感動するものなんです。例えば、ぼくが転職する時には、すごく給料がいいといわれてもB to B(会社対会社取引)の仕事には就かないと思うし、情熱を燃やせるのはB to Cのコンシューマー向けだと思うのでそちらを選びます。価値感の話で言うなら、ぼくはかっこ悪いプロダクトを作ってる会社では働きたくないんですよ。つまり、自分の価値観を基準に見極めてほしいということです。

 世の中的に成長産業はここだとか、そんなのはどうでもいいんです。自分が入って成長させればいいだけのことですから。画一的な考えを持つ人は「そんな衰退産業やってどうするの?」と言いますが、かつてのバブル期の長銀、興銀がつぶれるとは誰も思っていなかったように世の中は変わるわけだから、そんなことに囚われなくていいんです。今の価値観で判断していいものは、これから先、いい状態であり続ける保証はない。裏を返せば、今あまり注目されてないものが、ものすごく注目されるかもしれないということです。

【前刀禎明(さきとう・よしあき)】
1958年生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学大学院管理工学修士課程修了。人材教育会社リアルディア代表。『めざましテレビ』(フジテレビ系)で独自コーナー「さきつぶ」を担当。ソニー、ウォルト・ディズニー・ジャパンなどを経て1999年にライブドアを創業。2004年にアップル米国本社のマーケティング担当副社長に就任。同年アップル日本法人代表取締役を兼務。近著に『人を感動させる仕事』(大和書房)。

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