安倍晋三首相は昨年12月26日、靖国神社を電撃参拝した。それに対して真っ向から冷や水を浴びせたのは中国ではなく、在日米国大使館だった。ただちに「米国政府は失望している」という声明を発表したのだ。それを皮切りに、米国務省、ロシア、EU(欧州連合)が次々に非難声明を出した。皮肉なことに、首相の靖国参拝は支持基盤の保守派にも議論を呼んでいる。
安倍首相が靖国参拝直後、フェイスブックに〈御霊安らかなれとご冥福をお祈り致しました〉と書き込むと、約42万人のフォロワーからの「いいね!」は一気に8万件を超えた。ネットの支持率調査でも参拝支持派が7割に達し、逆に参拝に失望声明を出した米国大使館のフェイスブックは、「内政干渉だ」「日本だけに我慢させるな」といった抗議の書き込みで大炎上した。
こうした状況を、必ずしも保守派が諸手を挙げて歓迎しているわけではない。ベストセラー『靖國論』で靖国神社の重要性を説いた漫画家の小林よしのり氏はこういう。
「安倍首相のフェイスブックに書き込んでいる若者たちは、反中・反韓の偏狭なナショナリズムに染まっている層が多い。だから中韓に喧嘩を売るような安倍首相の行動を持ち上げる一方で、米国大使館のフェイスブックを炎上させる。
では、日本が中韓と断交し、米国の支援なしで自国だけで戦えるのかというと、できないでしょう。結局、子供(安倍首相)が親(米国)の許可なく近所(中韓)とケンカして、それを親に叱られて駄々をこねているようなもの。そんな情けないものは、保守でも何でもない。
彼らは靖国神社の本質さえわかっていない。靖国神社は戦争で国家のために戦い、命を捧げた人々を顕彰する施設です。そこで『不戦の誓い』をするのは、保守派が否定してきた河野・村山談話と同じことで、本来は英霊に失礼なはず。
第一、中国の軍隊が尖閣に上陸したら、日本は戦わないのか。靖国神社で不戦の誓いをするのがいかに矛盾している行動か、そんな理屈は米国にも通用しません」
事実、2014年の自民党運動方針案の「靖国神社への参拝を受け継ぐ」という項からは、保守派の反発があり「不戦の誓い」という記述が削除された。
それでも、安倍首相の意識は依然、ネットの支持層に向いている。首相就任以降、3万件台で推移していたフェイスブックの「いいね!」が12月に1万件台半ばまで半減したことを懸念し、靖国を参拝しなければ保守派のコア支持層を失うと危惧していたという。それが参拝後に8万件まで「いいね!」が急増したことを喜んでいたと、自民党関係者はいう。首相は今後の参拝への意欲も表明し、もはや後戻りできない状況にある。
※週刊ポスト2014年1月24日号