野球界には様々なセオリーがある。いまでは多くのプロ野球選手が取り組むウェイト(筋力)トレーニングも、かつては見向きもされなかった。日本球界でいちはやくウェイトトレーニングを取り入れた桑田真澄氏と、「走れ、走れ」のトレーニングで有名な金田正一氏がトレーニングについての持論をぶつけあい、故力道山とのゴルフの思い出を語った。
桑田:僕がプロに入った頃には、日本の球界でウェイトトレーニングをやっている人はほとんどいませんでしたね。ただ僕は、プロ入り後の早い段階から、自分のトレーニングの中にウェイトを取り入れていた。だから「新人類」なんていわれていました(笑い)。
金田:ではなぜそれまで取り入れる人間がいなかったか、を考えなきゃならん。必要ないからじゃ! 最近の若いヤツは、「アメリカでは皆やっている。やっていないのは日本だけだ」などと抜かすが、何もわかっとらん。100キロ近く体重があるような選手が多いアメリカと、70~80キロくらいの選手が中心の日本では、鍛え方が違って当然なんだよ。
桑田:確かに体格差は歴然ですからね。
金田:野球選手で太ったヤツは問題外だが、筋肉で膨れあがったヤツも同じ。大バカ野郎ですよ。筋肉がつけばいいというものではないんだ。しかし桑田、お前がウェイトをやっていたというのは意外だな。
桑田:僕はいいといわれたことはとにかく試してみたかったんです。先輩方の話をよく聞いたり、往年の名選手の投球フォームの写真などを集めたりして、研究していました。ウェイトについては、アメリカのスポーツ医科学を勉強していたので、その影響で取り入れていたんです。
金田:だが、そのアメリカとは違うことがお前もよくわかっただろう。むしろ日本人にとっては弊害だらけなんだよ。
桑田:確かにウェイトをすることで、無駄な筋肉がついたり、バランスを崩したりするという問題もあります。打者でいえば、飛ばそうとして腕を鍛えることによって、下半身を使わず上体だけでバッティングをしてしまうような悪影響を及ぼしやすいのも事実ですね。
金田:「飛ばす」という言葉で思い出したが、ワシは現役時代、力道山とゴルフに行ったことがあるんだよ。力道山はあの丸太のような腕を見せつけて、「お前は細いな、飛距離も出ないだろう」などといってきた。だからワシは頭に来て、ドライバーショットをぶっ飛ばしてやったんだ。結果、力道山を約100ヤード置き去りにしてやったよ。
桑田:なんだかすごい話ですね(笑い)。
金田:筋肉だけでは意味がないというひとつの例だよ。
※週刊ポスト2014年1月24日号