売り上げが好調な大和ハウス。大野直竹社長は「業界初」で攻め続けると発言している。 大野社長が「業界初のことをやるのが大事」と語ったコンセプトを体現しているのがロボット事業だろう。
「なぜハウスメーカーがロボット?」「大和ハウスは本気なのか」
2008年にロボット事業推進室が立ち上がった時、業界では驚きをもって受け止められた。
同社が手がけるのは、脳卒中の後遺症や脊髄損傷による麻痺がある人や、脚力が弱くなった高齢者の歩行をサポートする「ロボットスーツHAL福祉用」、セラピー用アザラシ型ロボット「パロ」、自動排泄処理ロボット「マインレット爽」など福祉・介護分野が中心だ。
大和ハウスがロボットに力を入れるのは、高齢者対応ビジネスを将来の柱のひとつに据えているからである。
すでに同社は累計5000件以上の医療介護施設・高齢者向け住宅の建築を実施。そのノウハウを活かして施設の建築請負だけでなく有料老人ホームの自前での運営や訪問介護サービスまで事業を拡大している。ロボットはその一環だ。同社理事でヒューマン・ケア事業推進部長・ロボット事業推進室長の田中一正氏(61)が語る。
「HALは筑波大学大学院の山海嘉之教授が開発したものです。偶然、山海教授と出会い、これは非常に役に立つものだとピンと来ました。弊社のネットワークを使って販売すれば多くの困っている方の助けになる。
すでに全国160か所以上の病院・介護施設に導入され、その成果を多くの学会で発表したことでロボットの認知度は高まってきました」
パロも医療・介護福祉施設などで認知症の高齢者や双極性障害患者などのセラピー用として利用され、アメリカのFDA(食品医薬品局)に医療機器として承認されている。東日本大震災の後には避難所などに62体のパロが無償貸与され、被災者たちの癒やしとなった。
「今後は自立支援や社会支援、健康管理や見守りの分野でロボット事業を拡大していきたい。目標は2035年に5兆円になると試算されている生活支援ロボット市場の中でシェア10%、5000億円の売り上げを確保することです」(田中氏)
ただし、2012年に発表した狭小空間点検ロボット「モーグル」は自社製だが、HALやパロは自社開発ではない。そのためロボット事業は規模はもちろん、利益率も高くないのが現状だ。自社開発に向けて今後は専門の人材も採用していくというが、電機メーカーのお株を奪うのは簡単ではない。
さらに普及させるには医療・介護分野で保険適用されるかなど政府の規制を突破する力も問われる。そうした多くの壁を乗り越えてこそ、「5000億円」の目標に辿り着けるだろう。
※SAPIO2014年2月号