もともとほっそりしていた体が、ひとまわり小さくなっていた。体重は、二十数kg。食道がんのため死去した女優・淡路恵子さん(享年80)の遺体が安置された東京・池袋の仙行寺に集った人々は、命を燃やし尽くし、骨と皮にやせ細ったその姿に言葉を失った。
入院中も淡路さんは、特に男性の見舞客は断っていた。それは、化粧もしていないやつれた姿を見られたくないという女優の、そして女の矜持だった。
数々の出会いと別れ、光と影に彩られた80年の人生は、195日間に及ぶ闘病生活の末にようやく今、静かに幕を下ろした──。
「私ね、ナレーションとか、アテレコの仕事をやってみたいの。これまで、いろんな役を演じてきたけど、一度もやったことがなかったから。退院したらやってみたいわ」
病床で、17年にわたってマネジャーを務める所属事務所社長・小林香代子さん(67才)の「退院したらどんな仕事がしたいですか」という問いかけに、しっかりとした口調でそう語っていた淡路さん。
最初に体に異変を感じたのは昨年初めのことだった。「目まいがする」「お腹の調子が悪い」などと不調を訴えるようになった淡路さんに、小林さんが再三にわたって病院に行くように勧め、ようやくそれが実現したのが約半年が過ぎた6月下旬のことだった。
「病院の先生からは『あと1週間遅かったら、腸閉塞で亡くなっていたと思います』と言われました」(小林さん)
その後、精密検査で直腸がんと診断されたが、手術は無事に終了。体力が戻れば、程なく退院できる――淡路さんも小林さんもそう考えていた。
「でも、今思うと、半年も苦しんで亡くなるのと、すぐに亡くなるのと、どっちがよかったんだろうって思います。再起も結局叶わなかったですし…。良いことも悪いこともたくさんあって、それでも姉妹みたいにずっと一緒にいましたから。ふとそう思うことがあります」(小林さん)
入院中、淡路さんは女性セブン連載「明日も生きられる」にインタビューという形で登場してくれたが、本来の映像の世界に戻ってくることはなかった。淡路さん自身は昨年、女性セブンのインタビュー(2013年1月24日号)でこう話していた。
「いつ死んでもいいの。生きたいっていう思いもないの。みんな死んでしまって、この世には何の思いもないから」
そして「80才の夢は?」と問いかけると、こんな言葉を。
「何もないわ。夢も見やしないわよ、近頃は。その日まで元気で、人に迷惑をかけない。それだけ」
※女性セブン2014年1月30日号