1月11日、食道がんのため死去した女優・淡路恵子さん(享年80)。不調を訴え昨年6月下旬、病院に行くと、直腸がんと診断され入院、手術することになった。
手術を前に、淡路さんは肺活量を増やす訓練を始める。全身麻酔で手術を受けるためだ。淡路さんは肺活量が少なく、それでは局所麻酔でしか手術が受けられない。それは、万が一の時のリスクが増すことを意味した。17年にわたってマネジャーを務める所属事務所社長・小林香代子さん(67才)が振り返る。
「お見舞いに行くと、淡路さんが機械につながった管を口にくわえて『ふぅふぅ』って。『何をやってるんですか』と聞いたら、『なんだか知らないけど、これをやれって言われたの』って(笑い)。一刻も早く復帰したかったんだと思います」(小林さん)
約1週間のトレーニングで、全身麻酔での手術が受けられるようになった。手術の翌日には病室に、20代の頃からの親友が訪れた。デヴィ夫人(73才)だ。
「淡路さん、ちゃんと食べなきゃダメよ。私はしっかり頂いてますから」
「デヴィ子、あなたは食べすぎなのよ」
病室に響く2人の笑い声は、元気な頃のままだった。しかし、デヴィ夫人の心配通り、淡路さんはどんどん食が細くなっていった。そんな淡路さんのために、小林さんは、大好きだった帝国ホテルのグラタンやカレーを運んだり、自宅近くのお気に入りのお店でスパゲティを作ってもらったりした。
ところが、その大好きな食事も喉を通らなくなっていく。
「そうなると、スパゲティといっても、3本くらい。それ以上は、食べられないんです」(小林さん)
そしていつしか、こう話すようになった。
「小林さん、私に万が一のことがあっても悲しまないでね。私はこれもまた天命だと思ってるから」
10月のある日、淡路さんはこんなことを口にした。
「何もしていないのって嫌だから、般若心経を写経してみたいの。買ってきてくれない」
小林さんは驚いた。今まで一度も、淡路さんが神仏に頼る姿を見せたことはなかったからだ。
ベッドの枕元には、かつての夫・萬屋錦之介さん(享年64)と、ふたりの息子の戒名を書いたお札が祀ってあった。しかしそれは、祈るためではない。話をするためだ。ひとり暮らしをする淡路さんが、毎日お札相手に「今日ね、こんなことがあったの」とおしゃべりをしていたのを、病院に持ち込んだものだ。
「淡路さんはもちろん口には出さなかったですけど、覚悟というか、思うところがあったのかもしれません。そういうのはやっぱり、自分がいちばんわかるでしょうから」(小林さん)
しかし、体を起こすことすらすでにつらかった淡路さんが、写経本に筆を入れることはなかった。
※女性セブン2014年1月30日号