昨年の初競りマグロにつけられた値段、1億5540万円に対し、今年の落札価格は昨年の20分の1の736万円に大暴落となった。
青森・大間のマグロ漁シーズンは7~2月まで。約半年間で1年分の収入を稼がなければならない。日帰り漁で毎日船を出す漁師・竹内正弘さん(62才・736万円のマグロを獲った)の場合、夕方5時に沖に出て、翌朝5時に戻って来ることもあれば、午後3時から翌日の午前11時まで漁に出る時もあるという。
「水揚げが多ければ、年収6000万円程度になるけど、それはほんの一握り。年収が300万円に満たない漁師もいる。だから、シーズンオフには、かれいなどほかの漁で生計を立てる人も多い」(大間のある漁師)
マグロ漁はとにかくお金がかかることでも知られる。まずは、マグロ漁船を購入しなければならない。この初期投資費用がピンキリだが、だいたい5000万円ほど。漁協から借金をしてマイナスからのスタートで始めるのだ。ちなみに、竹内さんの漁船は、大間でもトップクラスの19t大型で、2億5000万円したという。
漁船代の次に漁師の頭を悩ませるのが、燃料代だ。1回漁に出るたびに約5万円が消えていく。円高の影響もあり、年々上がる一方だ。だが、1か月間マグロが獲れないことはざら。その間の収入はゼロだから、生活は苦しく、精神的にも追いつめられる。
こうした時期の食事は、みそに白飯をつけただけでしのぐ漁師もいるという。経済状態が厳しいなかでも、マグロ漁を続ける理由はただひとつ。マグロの女神がくれる“大物”、初競りの御祝儀という“宝くじ”があるからだ。
だが、マグロ漁は命の危険と隣り合わせの仕事でもある。大間では2013年末、20代の若い漁師が漁の最中に船から落ちて行方不明になった。
「親子2人のマグロ一本釣り漁船でした。すぐそばで息子がいなくなった父親の気持ちを考えると…漁に出ていた人たち全員で仕事を中断して捜したんだけど、見つからなかった。今も行方不明のままです…」(前出・大間のある漁師)
ひとつ間違えたら、そこは極寒の海。そんな命を賭した大仕事に相応しいマグロの対価とは、いかばかりだろう。ある大間のベテラン漁師は、今年の暴落にほっと胸をなでおろしている。
「年末年始の海は荒い。一攫千金を目指して、危険を冒してまで漁に出るのは、いかがなものか。適正価格に戻れば、無茶をする漁師がいなくなり、事故も減ります」
※女性セブン2014年1月30日号