再び販売台数世界一の座についたトヨタ。2009年に就任した豊田章男社長(57)の道程は、リコール問題あり、震災や超円高ありと決して平坦ではなかった。豊田社長の「坊っちゃん力」とは──。
豊田社長のマネジメントは、その人事に象徴されているといっていい。副社長6人中4人が出戻り組。通常、“上がりポスト”とされるグループ子会社の社長をもう一度本社に呼び戻し、副社長に据えた。「子会社時代に意思決定の長だった経験を活かし、決断できる副社長として活躍してほしい」と豊田社長は説明する。
一度本社では「いらない」とされた人間のカムバック──社内では、当初、前体制を否定するかのような人事について批判も多かった。トヨタ社員はこう語る。
「副社長は社長に“借り”ができた格好になり、社長に対してイエスしかいえなくなるんじゃないか。本当に番頭として彼らは機能するかといった声は多かった」
でも結果は違った。
「彼らは物を言いすぎたゆえに飛ばされた人材。それに皆、社長より年上で忌憚なき意見を述べる。そういえば社長がある酒席で、『あいつら(副社長)好き放題言いやがって、やってられないよ』と嬉しそうに話していたそうです(苦笑)」
経済ジャーナリストの福田俊之氏によれば、社長就任以来、毎週火曜日の早朝ミーティングを行なっているという。副社長6人と熱い議論を交わす。「副社長からどんどん問題点が報告されて、社長が『俺は知らなかったよ』ということがなくなったようです」と福田氏は話す。
昨年4月の組織改編によって、自動車事業を先進国、新興国などの4エリアにわけ、現場長が自ら裁決できる体制に切り替えた。6人の副社長には販売や企画など、それぞれの担当事業のほか、それらのエリアも管轄させている。
社長が現場まで赴き、現状把握に努める一方、現場長には社長と同等の権限をもたす──。一見、矛盾しているように思えるが、豊田社長はこう語る。
「現場視察には行くが、いちいち口は出さない。現場社員にはもっと自由にやってほしいんだ。その代わり、その責任はすべて私が取る」
※週刊ポスト2014年1月24日号