昨年12月の安倍晋三首相の参拝によって、靖国神社の中に、国籍を問わず国内外すべての戦没者を慰霊する「鎮霊社」が存在することが広く知られるようになったが、ほかにも靖国神社にはあまり知られていない施設や歴史物が数多くある。
たとえば、明治15年に日本最初にして最古の軍事博物館として開館した「遊就館」。10万点の収蔵品の中から祭神の遺影や遺品、古代から第二次大戦の武器や武具の数々が展示されている。玄関ホールに入ると、映画『永遠のゼロ』でお馴染みのゼロ戦が目に飛び込む。復元された実物大の機体が都内の真ん中で展示されていることを知る人は少ない。
ほかにも人間魚雷「回天」やロケット特攻機「桜花」など、普段見ることのできない歴史の実相に触れることができる。「軍国主義礼賛の施設」の汚名を着せられることもあるが、若くして散った「英霊」たちの写真や遺書に戦争を美化する影は微塵もない。
その近くには、日本近代軍事史に関する第一級の資料が保管される図書館「靖国偕行文庫」が建つ。蔵書数15万冊のほとんどが国防・軍事関連という貴重な資料は国会図書館に次ぐ規模とされるが、誰でも利用できる。
お堅い施設ばかりではない。本殿の裏には回遊式の日本庭園「神池庭園」や3つの茶室があり、裏千家の茶道教室や各流派の茶会が催される。
意外なことだが、靖国神社はスポーツと縁が深い。境内の一番奥には本格的な相撲場がある。毎年春の例大祭には横綱らの奉納相撲が開かれるほか、学生相撲選手権の舞台としても使われ、「学生相撲の甲子園」となっている。
ここではプロレスも行なわれ、昭和36年の奉納プロレスでは力道山や馬場、猪木がリングで喝采を浴びた。日本人による近代競馬発祥の地もこの神社だった。また、能楽堂では毎年奉納コンサートが開かれ、つのだ☆ひろ氏などの有名人をはじめ、実に多彩な人たちが参加している。「英霊来世」という若手ラップグループも靖国神社のイベントから誕生している。
写真■靖国神社
※週刊ポスト2014年1月31日号